小室裕一氏は自治省行政局振興課長時代に「平成の大合併」を指揮、その礎を築いた人物である。霞ヶ関を離れた現在、鉄道会社専務という激務の傍ら、軸足を団体自治から住民自治に移し、特定非営利活動法人日本マンガ・アニメトキワ荘フォーラム副理事長など、さまざまな文化活動に参画、地に足のついた地方公共団体の自力再生に尽力している。
<地方都市は大都市を販売市場と考えればいい>
――話は変わりますが、人口が減少して行くなかで、今後、東京と地方都市はどのような関係を保っていけばよいとお考えですか。
小室裕一氏(以下、小室) 今、日本では、高校から大学、大学から就職、就職して結婚という人生のプロセスにおいて、東京などの大都市に集中してしまう傾向があります。先ほどの話のドイツと比較すると、大企業も、有力大学も圧倒的に東京に集中しています。
もう1つ、メディアも東京に集中していますので、どうしても地方都市は東京と比べて発信力が弱くなっています。この傾向が、人口の減少によって、加速されるのは避けられないかもしれません。しかし、そのことと、地方が廃っていくことはイコールではありません。
考え方次第です。私は、1例ですが、地方都市は、若い人が中心になって、文化や芸術分野(美術、陶器制作、マンガ・アニメ制作等)の工房になり、東京他大都市は販売市場と考えればいいと考えています。すでに、その動きは、富山県の利賀村(利賀フェスティバル世界演劇祭)とか、小豆島(妖怪造形大賞)など、若い人の間で出てきています。作品を制作するのは、広々として、自然環境が豊かな地方都市の方がいいかもしれません。
<「幹が食べられる木に品種改良して山に植える」>
――「公共投資」に頼らずに、地方都市はどのように自力再生していくべきですか。
小室 私の経験から言えば、地方で大事なものの1つは間違いなく農業です。人間が生きていくためには食・農業は不可欠です。お米だけでなく、リンゴでも、イチゴでも何でもとても重要です。
私は昔、半分冗談、半分本気で「幹が食べられる木に品種改良して、杉や檜の代わりに、全国の山に植えてください」と研究者に繰り返しお願いしてきました。山に食料の備蓄ができ、日本人全体の食料備蓄が可能になれば、安心して儲かるものに専念できます。食料のカロリーベースの自給率を上げることと、農家が儲かるイチゴをつくることは、なかなか両立しません。
――大胆な発想ですね。昔からと言われましたが、何がきっかけでこのような発想が生まれたのですか。
小室 先日、政府は自治体に入る「法人住民税」の税収のうち年約6,000億円分をいったん国が集めて、財政力の弱い自治体ほど手厚く配る「地方交付税」に振り向ける方針を固めたと新聞に出ていたと思います。それに対し、新聞の論調では、東京都や豊田市など税収が豊かで交付税が配られない自治体は一方的に国に吸い上げられると批判的でした。
この是非はともかくとして、山村振興や「地方交付税」を担当すると、この問題はついて回ります。先ほど申し上げましたように、本来は東京他大都市と地方都市が双方で支え合っていくことが大切なのですが、現実にはそううまくいきません。そのとき、山に食料が備蓄できていると言えば、東京の人も豊田市の人も喜んでお金を出してくれます。
<プロフィール>
小室 裕一(こむろ・ゆういち)
首都圏新都市鉄道株式会社代表取締役専務、明治大学ガバナンス研究科兼任講師、特定非営利活動法人日本マンガ・アニメトキワ荘フォーラム副理事長、1974年東京大学法学部卒業後、自治省入省。79年群馬県行政管理課長、87年自治省財務局交付税課理事官、89年大阪市経済局参事としてデュッセルドルフ駐在、92年青森県総務部長、96年自治省行政局振興課長、2001年総務大臣官房審議官、05年総務省自治大学校長、総務省自治税務局長等
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