NET-IBでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、TPPと秘密保護法の関係について言及した1月6日付の記事を紹介する。
民主党政権時代に農水相を務めた山田正彦氏が書き下ろしの新著『TPP秘密交渉の正体』(竹書房新書)を出版された。
山田氏は2010年の農水相在任時からTPPに反対の姿勢を貫いてきた。山田氏は新著のまえがきに、「米国の言いなりになってはならない」と記す。この言葉は反米感情から来るものではない。TPPの内容を精査し、その本質を見抜いた結果として表出される言葉である。
本書の37ページには次の記述がある。「石橋湛山も米国により失脚させられたが、当時、岸信介と総裁選挙を争って辛勝した時に「米国の言いなりになってはならない」と野太い声で語ったのをテレビの映像で見て、感動した。」
山田正彦氏はいま、石橋湛山の言葉に思いを重ねている。
山田氏が新著冒頭に、「「TPPは農業と経済の問題ではないのか。よくわからないからひと言で説明してほしい。」とよく聞かれる。TPP(環太平洋経済連携協定)は医療、介護、教育、公共事業など、あまりにも多岐に及んでおり、かつ秘密交渉されているので、簡単に説明するのは困難だ。」と記されているように、TPPの内容は複雑で、ひと言で説明するのは困難である。
それでも、マスメディアの情報操作によって、TPPが自由貿易を推進するもの、国民に利益を提供するものであるとの刷り込みが行われているために、TPPの本質、TPPの危険がほとんど国民には知らされていない。
山田氏は、「強いて言えば、すべてを弱肉強食の市場原理のもとにおこうとしているのだ。巨大なモンスターのような多国籍企業のために。」と記している。
日本社会、さらに言えば日本の国全体を、根底から変質させるマグニチュードを持つのがTPPである。日本がこの枠組みに組み込まれてしまえば、もはや引き返すことは極めて困難になり、日本は根底から変質させられてしまうことになるだろう。すべての国民がTPPの正体を知り、その是非を判断し、手遅れにならぬように対処することが必要である。
山田氏の新著は、TPPが持つ危険な側面を、網羅的に捉え、具体的な記述をもって私たちに示すものである。
中野剛志氏が著した『TPP亡国論』(集英社新書)が、TPPの本質を日本国民に伝える先駆者としての役割を果たしたが、日本がいよいよTPPの入り口に差しかかろうとするいま、全国民が山田氏の『TPP秘密交渉の正体』を熟読する必要があると思う。
TPPは関税と農業の問題ではない。農業問題は極めて重大であるが、それ以外に、医療、食料、保険、労働、社会構造などの多面にわたって、決定的な影響力を発揮することになる問題である。
本ブログ、メルマガでも紹介してきたが、元農水官僚で現在は東京大学教授を務める鈴木宣弘教授の著書『食の戦争 米国の罠に落ちる日本』(文春新書)と、「食政策センター ビジョン21」を主宰する安田節子氏による2009年刊行の著書『自殺する種子‐アグロバイオ企業が食を支配する』(平凡社新書)を合わせて、すべての国民が熟読するべきである。
食料と農業は人間の生存にとって、根源的に重要なテーマである。
遺伝子組み換え食品や成長ホルモン満載の輸入牛肉を大量摂取していることにより、知らぬ間に私たちの肉体が蝕まれてゆく危険があることを、私たちは事前に知っておく必要がある。マスメディアが真実の情報を提供しないいまの日本の現状のなかで、私たちが真実の情報を入手できる限られた媒体が、インターネットの情報と単行本の世界なのである。
TPPの怖さは、秘密協定という点にある。秘密協定であり、締結後も4年間秘密保持義務がある。このことと特定秘密保護法が直接にリンクする。
安倍晋三政権は特定秘密保護法を強行制定し、その対象に外交機密、TPPの内容を指定し、TPPの内実を一切国民に知らせぬ考えである。TPPがあるからこそ、安倍政権は無茶苦茶な国会運営を実行して、現代版治安維持法と呼ばれる特定秘密保護法を制定したのである。
テレビが見せる絵は、農家が鉢巻きを巻いてTPP粉砕を叫び、こぶしを上げる姿である。関税が撤廃されれば、消費者の手元に安価な海外製品、海外農産物が提供される。日本の輸出産業は輸出を増大させて日本経済にプラスの恩恵がもたらされる。しかし、輸入農林水産物に押されてしまう農林漁業関係者が、自分たちの利益のために反対しているのがTPP。
これが、メディアが説明するTPPである。詳しいことを知らない国民は、この説明に騙されてしまう。
※続きは本日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第757号「知れば知るほど背筋が凍る背徳のTPP」で。
▼関連リンク
・植草一秀の『知られざる真実』
※記事へのご意見はこちら