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安倍政権1年の足跡を検証する(中)
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2014年1月11日 07:00

 2013年12月26日、安倍首相は東京・九段北の靖国神社を参拝した。近隣諸国や米国からの反発や懸念の表明が相次ぐ一方で、インターネットを中心に、参拝を支持し、諸外国の批判を「内政干渉だ」と反発する声が高まっている。特定秘密保護法の強行採決で急落した支持率を回復させるべく参拝に踏み切ったとの見方もある。同法は、治安立法の側面が強く、知る権利などへの懸念が根強い。昨年実施された参院選では、ある宗教団体の存在が浮かび上がってきた。安倍政権1年の取組みを、3つの論点から検証してみた。

<国会軽視の強行採決>
 「日本人は熱しやすく冷めやすい国民性がある。正月が過ぎればもう忘れてしまうのではないでしょうか」。
 昨年末、特定秘密保護法を取材した時に、強行採決に抵抗した民主党のある議員は、そう言ってため息をついた。たしかに前述の靖国神社参拝で、特定秘密保護法はすっかり話題から遠ざかり、むしろ近隣諸国や米国などによる参拝批判に対するナショナリズム的反発が高まり、外国の内政干渉と戦うとして、再び安倍政権の支持率が上昇に転じた。1カ月前のことさえ、なかったかのように忘れてしまう日本国民は政権にとっては好都合だろう。
 政府与党は、2013年12月6日深夜、野党の反対、国会前では反対派の声が続くなか、特定秘密保護法を強引に成立させた。国会は日本国憲法において国権の最高機関とされている。特定秘密保護法は、その存在を否定しかねない恐れを持つ一種の治安立法である。
 そもそも、特定秘密保護法は、麻生政権自体に持ちあがり、その後、民主党政権下で具体化。自民党の政権復帰にともない突如、法案の提出が強行された。安倍政権は、設置された日本版NSCとの関係で、「同盟国」である米国と情報を共有するためには機密情報の管理を厳しくする必要がある、情報機関として情報漏えいなどを防ぐ趣旨だという。なるほど、日本にはスパイ防止法もCIAのような対外情報機関もない。そこだけ聞くと、いかにももっともらしく聞こえる。

<特定秘密保護法成立で喜ぶ警察官僚>
kokkai.jpg だが、法案策定作業を担ったのは、外務省や防衛省ではない。警察官僚の出向者が多い内閣情報調査室である。警察組織の中でも、政治体制の維持、対外情報収集を担う公安警察の守備範囲だ。安倍首相は、小泉政権の時から、警察官僚とベッタリだといわれる。現在、内閣官房副長官の杉田和博氏は、地下鉄サリン事件時、警察庁警備局長であった。第一次安倍政権時に警察庁長官として朝鮮総連に対する制裁措置や家宅捜索を主導したのは、麻生内閣で官房副長官を務めた漆間巌氏だ。外務省出向時代には駐ソ日本大使館一等書記官、その後警察庁警備局長を経験した公安畑だ。

 じつは、警察官僚で出世していくのは、刑事局上がりではなく、警備局、つまり公安出身あるいは公安経験者がほとんどを占める。公安警察は、国家の治安維持を行なうとして、「思想犯」つまり左右の活動家や日本共産党、過激派、平和運動組織、労働組合、北朝鮮やロシア、中国などのスパイ、オウム事件以降は、統一教会などカルト宗教やイスラム原理主義グループなども監視対象としている。公安は、警察組織の中でも隠密の存在で、1986年に発覚した緒方靖夫日本共産党国際部長宅盗聴事件のように、警察庁警備局から都道府県警本部長を飛び越えて直接指令が届き、行動する。
 当然、秘密裏の活動が殆どであり、監視対象者に対する尾行や盗聴など「非合法」すれすれの行動が治安維持の名目により容認されている。ジャーナリストや日弁連が求めた「知る権利」を守るとか「情報公開」などないに等しい。法務省所管の公安調査庁も、破壊活動防止法(破防法)が設置根拠法で、強制捜査権限や逮捕権こそないが、公安警察と似た性格を持つ。
 報道機関やジャーナリストの自宅に家宅捜索が行なわれれば、上層部が萎縮して取材にストップがかかる可能性がある。ますます記者クラブの官製発表報道が幅を利かせ、調査報道は、ほとんど行われなくなるだろう。記者も公安当局から圧力めいたことをいわれた経験がある。そのような経験を持つ者にとっては、到底容認できるものではない。

<拡大解釈可能な法の危険性>
 特定秘密保護法の条文は26条からなるが、法律に基づかない「政令で定める」と、定義があいまいな「その他」が目立つ。いかようにでも拡大解釈が可能だ。しかも「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めたとき」に「特定秘密を提供するものとする」とされている。その判断を行なうのは行政機関の長、官僚である。官僚が差しさわりがあると判断すれば国会への報告義務は発生しない。政府の説明では、安全保障やテロリズムに関わる分野が特定秘密の対象というが、全省庁が特定秘密の『行政機関』とされ、安全保障と無関係な消費者庁まで含まれており、経済分野も対象になることは間違いない。

 TPP問題に詳しい弁護士の岩月浩二氏(愛知県弁護士会所属)は、「月刊日本」1月号のインタビューの中で、「特定秘密にかかわる「適合事業者」に働く人々に、「適正評価と称する監視体制を敷こうとしている」と批判。「適合事業者に国籍規定が存在しない」のは、「グローバル大企業が適合事業者になる」ことを想定しているからではないかと指摘している。さすがに、安倍首相に思想的に近い立場からも懸念の声が上がり、臨時国会閉会後の12月19日、元警察官僚でもある亀井静香元金融担当大臣と村上正邦元労働大臣が首相官邸を訪れ、安倍首相に問題点や懸念について意見交換を行っている。

<安倍政権を全面擁護する保守系メディア>
 特定秘密保護法は、様々な観点から問題が指摘されているにもかかわらず、全国紙では産経新聞が全面賛成し、読売新聞も条件付きながら賛成論を掲げた。情報を隠蔽したい政府や官僚にとって拡大解釈がいくらでもできる法を許せば、再び政権交代し、彼らが批判してきた左寄りの政党が政権を握れば、情報統制を合法的に行なうツールとして利用可能だ。まるで、安倍政権が永久に続くかのような賛成論には呆れるほかない。もちろん、国家機密の存在を否定しないが、いずれは公開されて検証されることが前提でなくてはならないはずだ。

 靖国神社参拝や特定秘密保護法をはじめとして安倍政権の政策・方針の多くに賛成の論調を掲げるのが産経新聞だが、その保守的スタンスに理解を示しているからだと思われる。ただ、同社のオピニオン雑誌『正論』において、「安倍晋三『救国』宰相の試練」と題する特集雑誌を出すなど、安倍晋三首相への肩入れぶりが非常に目立つ。安倍首相個人を持ち上げるのは、報道機関として考えると、いささか客観性、公平さに欠けはしないか。

 保守層の間でも、安倍政権に対する評価は真っ向から賛否が分かれる。消費増税やTPP交渉参加に対して、保守系文化人や政治家の批判は根強く、自民党内も一枚岩なようにみえるが、地方の切り捨てにつながる政策に批判的な議員は少なくない。ネトウヨ(ネット右翼)と呼ばれる保守的思想を持つネットユーザーも、一昨年の自民党総裁選前後の「安倍さん断固支持」から批判的な声に変化がみられる。安倍首相のフェイスブックをみても、消費増税決定直後は、批判のコメントでいっぱいであった。また、TPP交渉参加や解雇特区といった新自由主義的政策に対して「週刊文春」で「今週のバカ」と題するコラムを連載している哲学者の適菜収氏やこれまで安倍首相を支持してきた評論家の西部邁氏のグループからも批判の声があがった。

 その一方で、「約束の日 安倍晋三試論」の著者で文芸評論家の小川榮太郎氏が「正論」2013年12月号、1月号と2カ月連続で、安倍政権を批判する保守層にくぎを刺す論考を寄稿し、「安倍首相は新自由主義者ではない」、「日本の保守派は、アメリカに過剰反応すぎる」と安倍首相を擁護している。同氏はフェイスブックでも同様の主張を繰り返しており、「いいね」をつけて同調する人たちも一定数いる。もちろん、安倍首相への評価は、人それぞれ見方が違って当然だろう。思想信条は自由である。しかし、問題は思想理念だけにとどまらない。昨年、記者は参院選中に由々しき問題を垣間見ることとなった。

(つづく)
【八女 瞳】

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