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安倍政権1年の足跡を検証する(後)
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2014年1月12日 07:00

 2013年12月26日、安倍首相は東京・九段北の靖国神社を参拝した。近隣諸国や米国からの反発や懸念の表明が相次ぐ一方で、インターネットを中心に、参拝を支持し、諸外国の批判を「内政干渉だ」と反発する声が高まっている。特定秘密保護法の強行採決で急落した支持率を回復させるべく参拝に踏み切ったとの見方もある。同法は、治安立法の側面が強く、知る権利などへの懸念が根強い。昨年実施された参院選では、ある宗教団体の存在が浮かび上がってきた。安倍政権1年の取組みを、3つの論点から検証してみた。

<安倍首相を思想面で支える日本会議>
 2013年8月16日の朝日新聞(全国版)に安倍首相の政策理念とかかわりの深い記事が掲載された。「参院選で自民候補支援の宗教団体、靖国参拝に賛否」と題したその記事のなかで、自民党比例区当選者の得票と支援した宗教関連団体の名称が一覧表で紹介されていた。宗教団体票を得ている政治家は多いが、衆議院に比べ、参議院のほうがよりその傾向が強まる。
じつは記者は、昨年の参院選で、元産経新聞論説委員などを務めた北村経夫参議院議員の選挙事務所でボランティアスタッフとして働いていた。北村氏は、山口県出身。産経新聞で編集長や論説委員、九州・山口本部長などを歴任。首相とは同郷のよしみもあり記者時代から親しい。立候補前に出版された著書の「誇り高き国へ」の帯は、安倍首相とのツーショット写真で、内容も安倍首相の政治的信念を評価する記述が多い。安倍首相も絶対当選させたいとしていたが、全国的な知名度がなかった。そこで、ある宗教団体が同氏の選挙に大きくかかわる実態を目の当たりした。ある宗教団体とは統一教会(世界基督教統一神霊協会)である。

abe.jpg 朝日の記事でも名前が出ていたが、安倍首相が掲げる「戦後レジームからの脱却」の実現に向けて活動している保守系組織に、日本会議がある。安倍首相および安倍政権を考えるうえで、思想面、政策面から支える日本会議の存在は無視できない。安倍首相の目指す憲法改正や教育の正常化は、日本会議の理念と軌を一にする。保守系文化人や財界人などが役員に就任している超党派の民間組織だが、安倍首相をはじめ230名を超える超党派の国会議員による日本会議国会議員懇談会が政界に大きな影響力を与えている。現在、首相補佐官を務める衛藤晟一参議院議員は、日本会議に加入する複数の教団から支援を受けていた。たとえば、神社本庁の政治組織である「神道政治連盟」。日本会議とは理念・人脈的にほぼイコールだ。神道政治連盟、新生仏教教団、崇教真光などは、物心両面で保守系議員を支援してきたことで知られており、その教義や方針を見ても保守色のある宗教団体の一つといえよう。

<歴代自民党政権と癒着する統一教会>
 前出の朝日の記事で、一つだけ教団名ではない名称が載っていた。北村経夫参議院議員の支援母体の一つである「世界平和連合」だ。この組織は「統一教会」の政治組織「国際勝共連合」とほぼ一体で、本部事務所も東京・渋谷区宇田川町の同じビルにある。
 統一教会は韓国生まれの宗教団体で、公称信者数は約59万人。創立者は、2012年に亡くなった故・文鮮明(ムン・ソンミョン)氏。1992年にソウルで開催された合同結婚式に女優の桜田淳子氏が参加して世間の注目を集めた。冷戦時代は、韓国の情報機関KCIAの対日工作を担っていたことも知られる。同教団の日本における急速な勢力拡大は、安倍首相の祖父、岸信介氏との浅からぬ関係に始まる。父の安倍晋太郎氏も統一教会とその政治団体である「国際勝共連合」の全面支援を受けていた。選挙ともなれば、統一教会の信者が各議員の事務所にボランティアで従事し、晋太郎氏が信者を激励したこともあったという。しかし、原価よりも常識はずれに高額な壺や水晶玉を「購入しないと地獄に落ちる」などと不安を煽って売りつける霊感商法は、全国各地で被害が報告された。全国霊感商法対策弁護士連絡会によると、2013年までの被害相談だけで1,150億円の金額に及ぶ。
 2009年には、東京や福岡において統一教会系の関連企業や教会施設が、特定商取引法違反容疑で警察の家宅捜索を受け、信者が逮捕される事態に発展。捜査を主導したのは、経済事件を担当する生活安全部ではなく、思想関係を扱う公安部だった。教団本部にもガサ入れが入れば、宗教法人資格の取り消しに発展しかねない。統一教会に激震が走り、当時の会長が辞任。しばらく鳴りを潜めていた。ところが、第2次安倍政権発足前後からにわかに動きだし、駅前や繁華街での勧誘活動が再び活発化している。活動が活発化したのは、安倍政権との蜜月関係にあると噂される。

<自民党候補者が統一教会施設で講演>
 北村氏の選挙事務所は、公になっていた東京・平河町や地元の山口県田布施町以外に、福岡市にも置かれていた。事務所での仕事自体は、専ら人に会って支持者名簿の獲得と、事務所でのポスターやリーフレットの発送作業であった。公示を控えた6月のある日、事務所で東京の事務所との連絡調整をしている女性から、北村氏が「世界平和連合」の支援を受けていることを聞かされた。北村氏の支援を行なった団体や企業は、九州電力やJR九州、全日本トラック協会などで、事務所に張り出されていた。もちろん世界平和連合の記述はない。
 北村氏の実家が通称「踊る宗教」と呼ばれた宗教団体であり、祖母で教団の教組の北村サヨ氏は、安倍首相の祖父、岸信介氏が「将来、必ず総理大臣になる」と予言したという。宗教団体、それも、統一教会となれば話は違ってくる。伝聞では判断できず、その場は胸の中にしまいこんだ。だが、その不安はその後、現実のものとなった。公示と同時に見知らぬ若い女性が出入りするようになったが、アルバイトの学生などもおり、その一人だと思っていた。ところが、事務所に置かれたファイルに、統一教会福岡教会からの一通のファックスがあった。内容は、7月10日に、久留米市と福岡市にある統一教会の礼拝施設で北村氏が講演することでの連絡文書だ。さらに、世界平和連合の女性スタッフが事務所にいたことも判った。この件によって、支援者の一部が離れるなどの事態が起きた。北村氏の出身である産経新聞の複数の元同僚記者に話を聞くと「選挙に出たことについて弊社との関係はない」と口を揃えるが「統一教会との関係はやはり問題だ」と困惑を隠せなかった。

<スパイ防止法を推進した統一教会>
 統一教会が反共産主義を掲げていることは、前述したが、1992年に文鮮明氏が平壌を訪問し、金日成と会談して以降、北朝鮮への経済支援も展開している。当然両国の情報機関ともつながりが深い。古い話だが、『文藝春秋』 1984年7月号に統一教会系日刊紙「世界日報」元編集局長による「これが『統一教会』の秘部だ」と題する告発手記が掲載されたことがある。その内容は、霊感商法の実態や統一教会の幹部が天皇陛下の身代わりになって文鮮明氏に礼拝する秘密儀式があり、「日本はサタンの国」と教典「原理講論」に明記されていることなどを暴露するものだった。天皇陛下を侮辱する儀式の存在に激怒した右翼・民族派が勝共連合運動を非難しだした。中曽根政権時に、特定秘密保護法と性格の近い「スパイ防止法案」が議員立法で国会提出されたことがある。その運動推進母体は、国際勝共連合が中心となった「スパイ防止法制定促進国民会議」。同法案は、社会党や日弁連ばかりではなく、自民党のリベラル派からも反対の声が上がり、審議未了のまま廃案となった。韓国や北朝鮮とつながる統一教会が、日本のスパイ防止法制定に熱心なのは、なんとも滑稽な話だが、安倍首相は、公安警察人脈とつながりが深い。北朝鮮による拉致事件の解決に熱心な首相がこの事実を知らないはずがない。近年は、自民党も統一教会とは距離を置いていたが、選挙で勝つために再び統一教会との関係を復縁させたとすれば、その代償は国を売る行為でしかない。

<アベノミクスは日本を救うのか?>
 安倍首相および政権に対する評価を、靖国参拝、特定秘密保護法、統一教会をキーワードにみてきたが、やはり最大の注目は、経済政策だろう。政権発足から1年が経過してアベノミクス効果がこれから中小企業に出始めるとの見方もあるが、4月からの8%への消費増税で増税分の全額転嫁は難しいとの見方が強い。流通業でいえば立場の弱い中小の製造・卸企業は取引先からの納入単価の引き下げ要求に、逆らえないだろう。商品価格の1割が税金となれば消費者の財布の紐は固くなる。倒産する企業も増えるだろう。しかも、産業競争力会議において、非正規雇用の拡大が議論されている。国民の暮らしがアベノミクスで改善されるどころか、失業と貧困にあえぐ層が増加しかねない。安倍首相が目指す「美しい日本」は、国民の幸福を目指すものであることを願いたい。

(了)
【八女 瞳】

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