<依然としてガラパゴス島、日本の企業文化>
面白い本である。本書は、日本企業に勤務する17カ国40人の外国人社員から、著者が相談を受けた実話で構成されている。今となっては、「グローバル化」を叫ばない企業を探すことが難しい日本であるが、その実態は、依然、「ガラパゴス島」であることがよくわかる。外国人社員から見れば、日本の企業文化は不可解なことばかりである。
小平達也氏は、グローバル人材戦略研究所所長として、日本企業のグローバル展開を組織・人材マネジメントの側面から支援している。日本人・外国籍社員に対し、日本語、英語、中国語の3カ国語での研修を年間約100回行ない、政府関係機関の有識者会議座長・委員、大学講師を務める。
本書は、職場のコミュニケーション編(第1章)~ビジネス日本語編~マネジメント・チームワーク編~悩める上司編~就職活動・キャリア編(第5章)で構成されている。
・七夕の日に祝賀行事なんてありえない(中国人・40代男性)
中国に進出しているアパレルメーカーの話である。上海店、広州店に続き、中国内陸部の重慶に新店舗を出すことになり、七夕(7月7日)に、大々的な開店・祝賀セレモニーをすることを決定した。しかし、現地中国人社員から猛反対の抗議が起こった。
日本の7月7日は、中国にとっては日中戦争の発端となった盧溝橋事件(中国では七七事変と呼ぶ)が起きた日であり、この日が近づくと、新聞、テレビ、インターネットの論調は日本に対して厳しくなる。祝賀行事はありえないのである。
日本企業はその日を「社長のスケジュールに合わせただけ、おまけに七夕でロマンチック」という理由で選んだ。日中関係の行事に、歴史上の日程を意識するのは常識である。
・お客様は神様?絶対に納得できません(インドネシア人・40代男性、現地企業)
ジャカルタにある日系金融機関の話である。同地に進出予定の日系企業に関する条件調整ミーティングで、日本人上司は現地人部下に「お客様は神様です(For us customers are God.)だから彼らの要望は何でも聞くべきなのです。あなた方も神様は大切にするでしょう」と言った。すると、現地のメンバー全員で、発言の撤回を求め、ストライキに発展、日本の本社に猛抗議することになった
唯一神を持つキリスト教やイスラム教では神は特別な存在。「お客様は神様です」は、唯一絶対の神を冒涜するものである
・国によって異なるたとえ話の解釈!
たとえ話の解釈は国により異なる。例えば、「ウサギとカメ」の話は世界中にあるのだが・・・。
インド:「友情を大切に」という教訓、悪いのは居眠りをしたウサギではなく、ウサギを起こさなかったカメの方だ
フランス:「早くスタートすべき」という教訓、カメを先に行かせ、ゴール近くで、格好良く、抜こうと考えたが、スタートが遅すぎて敗れた
イラン:「意味のない競争はするな」という教訓、カメにはそっくりな弟がいて、替え玉で勝利した
カメルーン:「大切なものは準備・知恵・連帯」の教訓、カメが親類を集め、走る道筋に一定の間隔で隠れさせた。ウサギは、道筋のどこにでも、すぐ後ろにカメがいたので、必死に走り続け、ゴール前で倒れて死んだ
<違いを認識し、異文化を楽しむことが大切!>
たとえ話や諺は、日本の解釈とまったく逆の内容になることもあるので注意が必要である。本書にはこのような、面白いが、些細な誤解から現実に起こった悲惨な結果を考えると、決して笑えない例が40件載っている。
職場における外国人社員とのコミュニケーションで悩んでいる人や経営幹部にぜひ読んで欲しい本だ。著者も書いているが、これらの実話を充分に理解、学習したうえで「違いを認識、異文化を楽しむ」姿勢が大切である。同じ会社の中にいる同僚と、円滑なコミュニケーションができなければ、仕事の成果は期待できないからだ。
<プロフィール>
三好 老師(みよしろうし)
ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。
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