「一企業を40年以上に渡って勤めあげ、退職時には車4台分を贈られてその日を迎えた女性がいる」――そう聞いて、ぜひ会ってみたいと思った。リョーユウ工業(株)元代表取締役専務の藤井公子氏のことだ。女性が長年勤めるためには結婚、出産、子育てと、人生のライフイベントとの兼ね合い抜きには語れない。企業の顔と言われるほどの存在感を他者に与えていたのであれば、なおのことだ。ともすれば仕事の障壁にもなりかねない処々の事情を乗り越えて、輝きながら人生を送るためには何が必要なのか、その秘訣を藤井氏に訊ねてみたいと思った。
<大切にしてきたのは挨拶と食事>
――藤井さんがずっと続けられた挨拶の習慣を、社長が引き継がれたわけですね。
藤井公子氏(以下、藤井) そもそも挨拶を習慣にしたのは、「心のこもったおもてなし」で有名な、石川県和倉温泉の加賀屋旅館へ行ったのがきっかけだったんです。旅館に着くと、玄関前に女将はもちろん館中の仲居さんたちまでがずらりと並んで出迎えの挨拶をしてくださるのですよ。遠路はるばる足を運んだ甲斐があったと実感しました。その時です、遠くから来てくれた方へ挨拶することの素晴らしさを知ったのは。これを会社でも励行しようと思いました。
――始まりはおもてなし旅館からだったかもしれませんが、会社での挨拶は藤井さんが残された財産ですよ。いずれ伝統になると思います。
藤井 おもてなしといえば、大切にしているものがもうひとつあるのです。それは食事です。私の両親がとても食事に気を使ってくれていました。大人になって他の方から、「今、健康でいきいきと活動していられるのは、ご両親が食事を大切にしていらっしゃったからだよ」と言っていただき、その大切さに気づいたのです。美味しい料理を準備するのもおもてなしだなと思いますよ。家族だって、暖かいごはんが待っていると思えば、家に飛んで帰って来たくなるものじゃないのかなと思って、ずっとそれを習慣にしてきました。
――食事という、人間の基本的な営みを大切にして健康を保ち、元気に挨拶をして人との関係を築く、という理想的なサイクルを築かれていたのですね。
藤井 挨拶は、わざわざ出迎えなくても、と照れるお客様もいるけれど、私が挨拶をしてもらったとき嬉しかったから、ずっと続けたし、これからも続けてもらえたら嬉しいなと思いますね。遠くから訪ねてこられた方や、図面を持ってきて下さった方に、ちゃんとおもてなしする。それが企業として良いことかどうかわかりませんよ。もしかしたらもっとビジネスライクな方が良いのかもしれません。
――企業にとっても挨拶は魅力的だと思います。照れるお客様も会社の個性として受け止めてくれるでしょう。企業という世界は知らない人たちとの出会いがひとつのポイントになりますから、挨拶というパワーを築かれたことが大きなメリットになると思います。
藤井 数ある業者のなかでうちを選んでくれたのですからね。職人が良い製品をつくって事務所の人当たりが良かったらいいじゃないですか。博多駅50周年記念のイルミネーション、「光の塔」。ご覧になっていただけましたか? あの外装はリョーユウ工業も手がけたのですよ。私も査定で関わりました。ちょうど退職するのと同じ頃に点灯式が行なわれて・・・最後にあれを見ることができて本当に良かった。リョーユウ工業の技術はすごいですよ。私は誇りに思っています。
――挨拶でお客様との関係を、気配りで高い技術を持つ職人さんたちを、それぞれ育ててこられたのですね。それらはリョーユウ工業の伝統として受け継がれていくでしょう。長い間、どうもお疲れ様でした。そして、お話を聞かせていただき、どうもありがとうございました。
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