沖縄・生物多様性市民ネットワーク(沖縄BD)のメンバーで、前事務局長の吉川秀樹氏(49)=沖縄県名護市在住=に、辺野古埋め立てがもたらす自然環境への影響について聞いた。沖縄BDは、沖縄の生物多様性の理解や保全への取り組みを推進するために2009年7月に結成されたネットワーク(2010年、名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議で沖縄の生物多様性の理解や保全の訴えるために結成されたグループ)。また吉川氏は、ジュゴン保護キャンペーンセンター(SDCC)の国際担当を務め、ジュゴンの生息地である辺野古・大浦湾にジュゴン保護区を作るよう取り組んでいる。
<埋め立て土砂による侵略的外来種持ち込み>
――埋め立てによって、自然環境にどのような影響がありますか。
吉川秀樹氏(以下、吉川) 沖縄・生物多様性市民ネットワークは、環境、平和、人権の3つをテーマにして活動してきました。仲井真弘多知事が辺野古埋め立てを承認しましたが、埋め立て申請した国の環境影響評価書では、生物多様性が高い辺野古・大浦湾の自然環境の保全に対する懸念は何も払しょくされていません。知事が埋め立てを承認したというのは、公有水面埋め立て法に違反しています。なぜなら、実効性のある保全の措置は何一つないからです
具体的に、いくつかあげますと、埋め立て土砂による侵略的外来種が持ち込まれる危険があります。
辺野古・大浦湾の埋め立てには土砂約2,100万立方メートルを使用する計画です。10トントラック300万台分以上という途方もない大量の土砂を必要とします。土砂採取先である山口県周辺では、環境省が特定外来生物に指定しているアルゼンチンアリが繁殖していることがわかっています。アルゼンチンアリは、IUCN(国際自然保護連合)が選定している「世界の侵略的外来種ワースト100」にリストアップされており、生態系や人間活動への影響が特に大きい生物の1つです。
日本政府(環境省や沖縄県)は、「奄美・琉球諸島」の世界自然遺産の登録をめざしていて、その候補地が昨年12月26日、沖縄本島北部(東村、大宜味村、国頭村)を含む4島に絞られましたが、その場所は基地が建設される大浦湾とはわずか10キロしか離れていません。世界自然遺産候補地としてユネスコに推薦されると、評価判断するのは、IUCNです。アルゼンチンアリやその他の外来種が持ち込まれれば、世界遺産登録に重大な障害になると思います。
<ジュゴン保護へ国際自然保護連合が3度勧告>
――ジュゴン保護区にしようと取り組んでこられましたね。ジュゴンへの影響は?
吉川 大浦湾周辺には、国の天然記念物で、絶滅のおそれのある野生生物のジュゴンが生息します。ジュゴンは、豊かな環境、静穏な環境がないと生息できません。IUCNは、辺野古への基地建設に対し、3度勧告を採択し、ジュゴンの保護を求めています。
日本政府(沖縄防衛局)は、大浦湾周辺をジュゴンの生息地とみていず、「たまたま藻場を餌場として利用している。たまにしか来ていない」という認識なのです。だから、埋め立てても影響はないと言いたいようです。それは、生息地だと認めたら基地を造ることができないからでしょう。ジュゴンのような移動性の海洋哺乳類にとって、鳥類でいう巣というものはないので、エサをとるところが生息地なのは当然であり、辺野古・大浦湾周辺は重要な生息地であるはずです。
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