<米裁判所、ジュゴンへの影響の検証を命じる>
――ジュゴン保護の面では米国からも懸念が出ていますね。
吉川秀樹氏(以下、吉川) 米国でも、ジュゴンは米国内法の絶滅危惧種法で守られており、ジュゴンの生息地となると、開発へのハードルが高いはずです。
米国でのジュゴン訴訟の2008年1月の判決で、北カリフォルニア州連邦裁判所は、国防総省にジュゴンに影響があるかどうか検証し、影響がないように措置をとりなさいと命じています。米国防総省は、日本政府の環境影響評価書(アセスメント)を参考にして影響を検証すると言ってきました。しかし裁判所は、辺野古移設計画の実現性が不透明ということで、裁判自体は2012年2月に中断しています。今回知事による埋め立ての承認があり、日本政府が埋め立て工事に着工するということで、裁判がまた再開します。米国に日本の工事関係者の米軍基地内立ち入りを禁じるよう求める申し入れの準備が行なわれています。私たちの知る範囲では、日本の防衛省は米国防総省に日本のアセス評価書の概要しか出していないようです。評価書全文をみれば、ジュゴンや、外来種への影響をはじめ、保全措置がとられてないことは明確です。どこの国のアセスでも通らない内容です。
<ジュゴンの餌場の海草藻場が消滅>
――具体的には?
吉川 基地建設が着工されれば、ジュゴンの餌場である海草藻場、生息地自体が埋め立てによって消滅します。国は、海草藻場を移植すると言っていますが、移植そのものが技術的に困難だということは専門家から指摘されています。理由があって、そこに海草藻場があるのです。そこを埋立て、海草藻場を一時的に移植できたとしても、本来海草藻場が形成される環境でない場所で、定着するかどうか問題は大きいはずです。
建設中も完成後も、静穏な環境が保全される措置が万全ではありません。国は、埋め立て申請書やアセス評価書で、建設中は見張りをたて、またパッシブソナーでジュゴンを探知して、ジュゴンが来たら工事を止めるといいますが、多くの工事船が航行するなか、確実に探知できるかどうかわかりません。また、単なる普天間飛行場の移設ではなく、大型艦船が接岸可能な岸壁なども計画されています。オスプレイなどの航空機による騒音の影響だけでなく、大型艦船の往来が静穏な環境を害する懸念も大きいです。
<政治的判断ではなく、科学的判断をすべきだ>
――沖縄の基地をめぐって、知事や政府の対応をどう感じていますか。
吉川 環境アセスの評価書に対する知事自身の意見で、防衛局の示す保全措置では「生活環境および自然環境の保全を図ることは不可能」としていました。また県環境生活部は、埋め立て申請の手続きにおいて、「自然環境や生活環境の保全についての懸念が払しょくできない」としていました。つまり、環境保全策には大きな穴があるという見解で、県はこれまできたわけです。これらの意見はどこにいったのか。どうして、法で要求されている「基準に適合している」と知事は判断できるのか。まったく理解できません。知事は法を守っていない、これが私の見解です。法が要求しているのは、政治的判断ではなく、科学的な認識、データをもとにした判断です。政治判断があるとすれば、法を守っての政治判断であり、法を曲げた政治判断はあり得ないはずです。
これだけ多くの基地負担を背負わされている沖縄県は、本来要求すべきは要求できていいはずです。それなのに、日本政府も、受け入れた仲井真知事も、新しい基地を受け入れない限り、予算をあげない、もらえないといっているに等しい。これは、仲井真知事を含め、これまでの沖縄の知事の手腕が乏しいからとしか私には思えません。
危険な普天間は無条件で閉鎖し、返還されるべきです。基地は、なくなってほしいし、また返す時には、浄化がきちんと行なわれるべきです。米本土でも、海外基地でも、除染には10年20年の長いスパンが必要だということがわかっています。普天間返還の問題もその視点から考えないといけない。返還後、環境汚染により使用できない期間の補償を国、米軍に要求すべきだと思います。
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