【解説】
<ケンコーコムはなぜ再び裁判を始めたのか>
2度にわたってケンコーコム(株)後藤玄利社長のインタビューを紹介してきた。これまでの経緯を知らない読者のために解説を付す。
ケンコーコム(株)(東京オフィス:港区、後藤玄利社長)が国を提訴した「処方せん医薬品郵便等販売の地位確認請求事件」の第1回目の裁判が2014年1月14日に開催された。同裁判は、別表に見る通り、2009年2月6日に、一般用医薬品(OTC薬)のインターネット等による販売を禁止するとして厚生労働省が公布した改正省令第10号に対して、それを憲法違反だとしてケンコーコムが訴えた裁判に端を発している。
裁判は第一審で国が勝訴、二審ではケンコーコムが勝訴して国が控訴したが、最高裁判所は二審の判決を支持してケンコーコムが勝利した。最高裁判決を受けるかたちで2013年2月から6月まで開催された「一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会」では、OTC薬のネット販売を行なう際のルールづくりについて有識者の間で話し合いがもたれた。
その後、安倍内閣の下で進められた日本再興戦略は6月14日、OTC薬のネット販売解禁を一定の条件下で認めることを閣議決定した。
これを受けて厚労省は、「スイッチ直後品目等の検討・検証に関する専門家会合」や「一般用医薬品の販売ルール策定作業」を開催し、OTC薬のネット販売をどこまで緩和するかを検討した。結果、「劇薬指定5品目」と「スイッチ直後23品目」を一括りにし、新たに要指導医薬品というカテゴリーを設け、これら28品目の販売については対面に限るとの条件を付けて解禁を見送ることにした。
政府は12月12日、「薬事法および薬剤師法の一部を改正する法律案」を閣議決定して国会に提出、13日に公布した。同法案のなかには、処方箋薬は対面販売に限るとした一文が盛り込まれていた。
これに対してケンコーコムは12日、処方箋が必要な医療用医薬品について、インターネット等で販売できる権利の確認を求め、国を被告として東京地方裁判所に提訴したのである。その第1回目の裁判が1月14日に開催された。
<改正薬事法の施行はいつになるのかが焦点>
14日に行なわれた裁判を記者も傍聴している。裁判では、次回開催の期日が焦点となり、原告と被告の間で、裁判長が休憩を言い渡すほどの激しい応酬が続いた。理由はインタビューで後藤社長が述べている通り、判決が下されるのが、「今春の施行」が決まっている改正薬事法の前か後かで、裁判の勝敗を左右する可能性が大きいことによる。
原告(ケンコーコム)はその訴状において、「許可を受けた薬局開設者として、薬事法第49条で定める処方せん薬について、平成21年厚生労働省令第10号による改正後の薬事法施行規則の規定にかかわらず、郵便その他の方法による販売をすることができる地位を有することを確認する」と訴えている。そもそもこのような地位を確認することの利益があるかどうかが問われることになるのだが、OTC薬のネット販売訴訟においては、事実上行なわれているOTC薬に関する営業行為に対し、ケンコーコム側が不利益を被るものと判断されて「確認の利益」が認められた。しかし今回の場合は、まだ実際には行なわれていない処方箋薬のネット販売に関するものである。「(処方箋薬販売の)準備を進めていた」という点がどこまで確認の利益に当たるのかどうか、焦点の1つとなりそうである。
しかも改正薬事法が施行されるのは今春とされている。ケンコーコム側は14日の裁判で、国側の裁判引き延ばしを再三けん制し、国側に対して「速やかな答弁」を求め、裁判長にも「速やかな判決」を求めていた。なぜならば、改正薬事法が施行されれば、現行の薬事法に基づいて争っている「地位の確認」自体が意味を持たなくなるからである。
昨年12月13日に公布された改正案は6カ月以内の施行を目指している。6カ月というと、6月がタイムリミットである。被告である国は、次回弁論期日まで2カ月の猶予を裁判長に求めた。原告側は「(裁判は)税金でやっているのでしょう」と皮肉を込めて「国だけが長く(猶予期間を)もらうというのは公平性を欠く」として抗弁した。結局、次回口頭弁論の期日は3月11日に決まった。
厚労省は先週21日、改正薬事法の施行を3カ月前倒しで3月上旬にすると発表したと、メディアが報じている。
<電子処方箋の解禁を進めるもう1つの厚労省>
処方箋薬のネット販売規制が強まる一方で、厚生労働省ではITなど新技術に対応するためのインフラ整備のあり方に関する検討会「医療情報ネットワーク基盤検討会」を03年6月から医政局を事務局として開催してきた。第24回目から、情報政策担当参事官室に事務局を移して今も続けられている。
同検討会では、電子処方箋の実現に向けた議論が進められており、13年9月には工程表が示されている。工程表によれば、13年度中に現行制度との整合性など現行法令に照らして運用が可能かどうかを確認したうえで、14年~15年度にかけて法令・通知等を改正しガイドラインを策定、実現化を目指すとしている。
現時点では、処方箋は「厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令」(平成17年3月25日 厚生労働省令44号「e-文書法厚生労働省令」)により、その電子化は認められていない。
検討会ではこれまで、処方箋や処方情報(処方箋に記載された情報)が適切に標準化された記述形式でやりとりされることで、(1)医療機関間、医療機関と薬局間での情報の共有・共用化や情報の再利用が容易となる、(2)医薬品の相互作用やアレルギー情報の管理に資することが可能となり、ひいては国民の医薬品使用の安全性の確保等公衆衛生の向上の一助となる、(3)処方箋の電子化により、紙媒体の処方箋で散見される処方箋の偽造や再利用を防止できる――等々の理由から患者・医療機関・薬局いずれにもメリットがもたらされるなどとし、処方箋の電子化の必要性に言及している。一方で、電子化された処方箋の多重使用が容易になるなどのデメリットも懸念されている。
同検討会ではこれまで、処方箋薬のインターネット販売については議論されていない。「今後、議論される可能性はある」(厚労省政策統括官付情報政策担当参事官室)とするものの、改正薬事法が施行されてしまえば処方箋薬は対面販売に限られることになる。
後藤社長は処方箋薬のネット解禁を成長戦略の3本の矢になぞらえる。果たして第三の矢となり得るのか、第三の矢として厚労省の規制の分厚い盾を貫くことができるのかどうか、両者の攻防から目が離せない。
ちなみにケンコーコムはきょう(27日)、厚労省記者会で要指導医薬品の指定に関する同社の見解を発表するとしている。
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