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玄界灘の歴史の島・壱岐の食と偉人(中)
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2014年1月30日 13:58

<気候は温暖、山海の幸を育む>
 壱岐島に降り立ってみると、とても緩やかな地形であることに驚かされる。多少の小高い丘があるものの、最も高い場所でも標高は200m程度。車で走ると、島の至るところで一気に視界が開け、眼前に平野部が迫ってくる。なだらかな丘陵地は棚田で占められており、米や麦の耕作が盛んであることも一目で理解できた。
 地元の人によると、この地における稲作の歴史は古く、先に紹介した「魏志倭人伝」にも記述があるとのこと。しかも、平野地は長崎県でも2番目の広さを誇り、米の生産量は島内だけで県全体の10%を占める。WEBのショッピングサイトでは、壱岐産の古代米(赤米)が多く出品され、人気を博していた。

鯨供養の塔 離島でありながら穀倉地というギャップを支える秘密は、この地の気候にある。周辺を流れる対馬海流は、黒潮を主な起源とする暖流。高温・高塩分の暖かい水が周囲を囲むため、南にある福岡市よりもむしろ暖かいのだ。
 温暖な気候を活かして畜産も盛んに行なわれており、その品質はプロの折り紙つき。出荷された子牛(素牛)は、数年後に「神戸牛」や「松坂牛」、「佐賀牛」に姿を変える。好評を受けて、島では独自に「壱岐牛」ブランドも立ち上げられている。潮風を受けながらミネラル豊富な牧草を食べて育つだけに、美しい霜降りと柔らかな口どけを特徴とする。今や「日本一の和牛」の呼び声も高く、島内外に多くのファンを獲得している。

 海の幸にも事欠かない。特産の雲丹(うに)と味噌を混ぜ込んだ「がぜみそ」は、まさに絶品。あまり馴染みのない「カジメ」という海藻も、なめこ汁に似たトロッとした食感で隠れた人気食材だ。鯛やヒラメはもちろん、一本釣りで仕留めたクロマグロは「北の大間(青森県)、西の壱岐」と並び称されるなど、数え上げればキリがない。こうした山海の幸を求めて、壱岐には全国から観光客が訪れている。

<花開く独特の酒文化、世界が認めた壱岐麦焼酎>
 美味い食事を前にすると、どうしても酒が欲しくなる。これを機会に地元の酒蔵にも足を運ぶことにした。訪ねたのは「むぎ焼酎 壱岐」を製造する玄海酒造。酒蔵に併設する焼酎資料館(入場無料)では、この地で育まれた壱岐麦焼酎の文化を丁寧に解説していた。

 壱岐の酒と言えば、何といっても麦焼酎である。1995年には、ワインの産地であるボルドー(仏)らと肩を並べ、国連機関のWTOから「地理的表示の産地指定」を受けた。「地理的表示の産地指定」とは、酒類の確立した製法や品質、社会的評価を勘案し、原産地を特定して世界的に保護しようとする制度のこと。模造品が「ボルドーワイン」を名乗ることを許されないのと同様に、「壱岐焼酎」は、それ自体が世界的に認められたブランドということになる。
 資料によると、壱岐で麦焼酎の生産が始まったのは16世紀頃。焼酎のルーツには諸説あるが、16世紀頃にいくつかのルートで国内に伝わったというのが通説とされる。そして、その1つが豊かな穀倉地帯を島内に抱え、大陸との交易の中継地・壱岐であったことは間違いない。壱岐が「麦焼酎の発祥の地」と言われる由縁である。

 独特の壱岐麦焼酎の製法には、伝統が息づいている。壱岐から製法を学んだ他の産地が、麦麹を使った麦焼酎を造るようになったのは、50年程前からだという。これに対して壱岐の蔵元は、米麹を用いる伝統を頑なに守り、ついには世界に通用するまでにその品質を高めている。米麹が生む自然な甘みと、豊かな大麦の香り。2つが調和した厚みのある味わいは、伝統を糧とし、磨き続けた技術が生んだ傑作と言っても過言ではない。「むぎ焼酎 壱岐」は、こうした歴史のロマンを偲ばせる逸品であった。

 豊かな山海の幸と、素晴らしい酒を育んだ壱岐の島。次は、壱岐と縁のある偉人・傑物にも触れてみたい。

玄海酒造の焼酎資料館と「むぎ焼酎 壱岐」「壱岐スーパーゴールド22°」

(つづく)
【田口 芳州】

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