<アベノミクスがアベノリスクに転じる>
アベノミクスが一世を風靡した2013年が幕を閉じて2014年を迎えた。06年に小泉純一郎首相が辞任して以来、総理大臣の交代が年中行事となってきたが、13年は総理の交代がない年になった。12年12月に発足した安倍政権は13年7月の参院選にも勝利して、衆参両院で与党過半数を確保。強い政権基盤を固めた。
原発、憲法、TPP、消費税、沖縄基地など、日本の命運を左右する重大問題が山積している。衆参両院の国政選挙ではこれらの重大問題が徹底的に論議され、主権者である国民が誤りのない判断を示すことが求められたが、実際には重要争点が陰に隠され、メディアの誘導によって安倍政権が勝利を果たしてしまった。
アベノミクスの掛け声の下で円安と株高が進行した。このこと自体は悪いことではないが、日本経済の回復、改善は持続するのか。そして、原発、憲法、TPP、沖縄などの問題について、主権者の意思に沿う政策運営が実現するのか。極めて不透明である。
年末の12月には、特定秘密保護法が強引な国会運営によって制定されたが、主権者の多数は、安倍政権の法案審議が拙速であり、法律制定が適正でないとの判断を示している。それでも、安倍政権は衆参両院で過半数の与党議員を有しており、数の論理をもってすれば、すべてのものごとを意のままに押し通すことが可能になる。筆者は、安倍政権が国会を支配して、主権者の意思に反する諸施策を強引に決定してしまう状況を「アベノリスク」と称して警鐘を鳴らしてきたが、その「アベノリスク」が猛威を奮う状況が生まれている。
アベノミクスの余韻のなかで幕を開いた14年であるが、その前途には暗雲が迫りつつある。経済、海外、政治の順に2014年を展望してみることとする。
<他力本願だったアベノミクス>
13年のハイライトはアベノミクスで、その中身は円安・株高だった。12年11月に1ドル77円、日経平均株価8,664円だったのが、13年5月に1ドル103円、日経平均株価1万5,627円になった。急激な円安と株高が生じて、日本経済の空気がにわかに明るくなった。これをもたらしたのがアベノミクスだとされて、安倍政権の人気が高まった。その結果として13年7月の参院選でも安倍政権が勝利した。
近年の金融市場変動を見ると、為替と株価の強い連動関係が観察される。円高は株安、円安は株高の連動関係を示してきた。安倍政権発足時の半年間にわたる株高をもたらした基本背景は円安にあった。
その円安をもたらしたのは安倍政権が掲げた金融緩和政策の強化であるとされているが、実態は異なる。過去10年間の変動を分析すると、円ドルレート変動に最も強い影響を与えてきたのは、米国長期金利である。米国長期金利と円ドルレートは基本的に連動してきた。米金利低下がドル安=円高をもたらし、米金利上昇がドル高=円安をもたらしてきた。
米国10年国債利回りは12年7月に1.38%の最低水準を記録した後、上昇トレンドに転換した。この米金利上昇がドル高=円安を生み出す原動力になった。これがなければ、安倍政権の下での円安・株高は発生しなかったと思われる。安倍政権が示した金融緩和強化姿勢と大型補正予算編成が日本株高の一要因になったことは事実だが、アベノミクスの成果とされる円安・株高が生まれた根源的な要因は、実は米国長期金利上昇にあったのだ。
この下地があったところに、安倍政権が金融緩和強化の方針を示し、さらに13兆円の大型補正予算編成に動いた。その結果として株価上昇が強められたのである。
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<プロフィール>
植草 一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測制度の高さで高い評価を得ている。また、政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。
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