今回の都知事選は、告示前に一度も候補者間で討論が行なわれないという異例の幕開けとなった。つまり、誰がどんな政策を考えているかよくわからない「ノーイシュー選挙」だった。2月1日夜、ニコニコ動画が主催する討論会でようやく主要4候補者による議論が交わされた。
ここにきて小泉純一郎元首相とコンビを組む細川護熙氏が、与党の推す舛添要一氏を急激に追い上げている。それは「脱原発」という明瞭なロジックを掲げて「ワンイシュー選挙」に持ち込んでいるからだ。東京都知事選は500万の浮動票が存在する「風が吹く選挙」とも呼ばれ、1つのきっかけで大きく流れが傾く可能性を十分に秘めた戦いとなる。
前回の選挙では、「脱原発」を訴えていた宇都宮健児氏が93万票集めた。石原慎太郎元都知事の下で副知事を務めた猪瀬直樹氏に相対した結果としては、健闘したと評するに値する。ただ、このときは「脱原発」が争点化できていたかといえば、そうではなかっただろう。今回は小泉元首相の入れ知恵もあって、細川氏が一押しに「脱原発」を争点化した。
「なぜ都知事選で、国が考えるべき『脱原発』が争点になるのかという疑問を呈する人もいる。しかし、都知事の最大責務は都民の安全を守ることだ。再び原発事故が起これば何万人もの都民の生活を脅かすことになる」。
こう訴えながら、「脱原発」対「原発推進」という1つの対立軸をつくろうと試みている。
一方の舛添氏は「長期的には原発依存の体制からは脱却しないといけない。ただ、それは代案を含めて30年から40年のスパンで考えるべきだ。東京は6%しか再生可能エネルギーを使っていない。これを20%にすれば14%分、原発依存を減らすことができる」と発言。「脱原発」票も取りこぼさない姿勢を見せる。
とはいえ、舛添氏は原発再稼働を目論む安倍政権の申し子だ。「依存を減らす」といっても「ゼロにする」とは一言も発しておらず、事実上は「原発推進」。もう1人の推進派である田母神氏は、「世界一の原子力技術を持つ日本は原発を推進すべき。今は放射能の危険性が過剰に喧伝されているだけだ」と明確にその立場を示す。
ただ、こうした「脱原発」自体が各候補者間で議論の俎上に載せられただけでも、細川氏(とそのウラにいる小泉氏)の戦略は奏功したと言える。
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