<金融緩和政策の効果は乏しい>
問題は2013年に生まれた日本経済改善の流れが、14年も持続するのかどうかである。カギを握るのは、当然のことながら安倍政権の経済政策である。しかし、その内容を精査する限り、新年の日本経済に対しては極めて強い警戒感を保持することが求められることになる。金融政策の効果発動余地は乏しく、財政政策は方向を大転換してしまうからだ。成長戦略は資本の利益を増大させる面を持つが、主権者である国民の生活を潤すものではない。アベノミクスは"アベコベノミクス"に転じてしまう可能性を強めている。
安倍政権は金融緩和政策を強化すれば円安・インフレ・経済成長の成果を得られると主張してきたが、13年の実績はこの主張を覆すものだった。安倍政権は日銀総裁に財務省出身の黒田東彦氏を起用して、金融緩和政策の強化を実行させた。黒田日銀が金融緩和強化を決めたのは13年4月4日だった。ところが、この直後から日本の長期金利は急騰してしまった。その結果として、5月以降、円急騰と株価急落が生じたのである。
結局、日銀はインフレ誘導の掛け声を自ら封印せざるを得なくなった。かつての白川方明総裁時代の金融政策運営と変わらぬ政策運営路線に回帰してしまったのである。その結果として、再び日本の長期金利は緩やかに低下した。
金融緩和政策の効果は限られている。ゼロ金利の下で金融緩和政策を強化しても効果を得ることはできない。量的金融緩和も短期金融市場に資金が滞留するだけで、経済活動を活発化させる民間経済部門への資金供給を増大させないのである。
この点は専門家の間での論争点ではあるが、少なくとも、理論的に追加金融緩和の効果が確認されていないことははっきりしている。
<警戒される日本版財政の絶壁>
14年の日本経済にとって、最大の脅威になるのは、安倍政権の超緊縮財政政策である。消費税率が4月から引き上げられる。国民負担は年間8兆円増大する。社会保障負担の増加と合わせて年間9兆円の負担増だ。安倍政権は5.5兆円の景気対策で景気悪化を食い止めると説明しているが、重大な見落としがある。
それは、13年度に実施された13兆円の補正予算の効果が剥落することである。12年度末に策定された13兆円補正予算が実施されたのは13年度である。14年度には13年度比で、この分の落差が生じるのである。増税等の効果を合わせて、16.5兆円もの真水が日本経済から抜き取られるわけだ。そのGDP比は3%を超える。
13年の米国経済最大の脅威が「財政の崖」だった。「財政の崖」とは、13年の米国財政がGDP比3%分の真水を抜き取ることを指した。14年度の日本財政の景気抑圧規模はこれを超える。私は日本版「財政の絶壁」と称しているが、これが日本経済を撃墜してしまうリスクがある。
消費税の増税実施直前の14年1~3月には、激しい駆け込み支出が行なわれるであろう。しかし、その山が高ければ高いほど、その直後の谷は深くなる。バブル崩壊から24年の年月が経過して、日本国民の消費行動は研ぎ澄まされたものになっている。3%の税率引き上げに対して、鋭敏に反応しないわけがないのである。
97年度に橋本政権が実施した消費税増税などの緊縮策は金額にして13兆円、GDP比3%弱におよぶものだった。この政策逆噴射で日本経済は破壊された。消費税の増税実施直後の97年5月には日経平均株価が2万円を突破するなど、経済は一時的な明るさを示した。駆け込み支出で、経済活動が活発化したからである。
ところが、宴の後の冷え込みは激しかった。その延長上に山一倒産、長銀、日債銀破綻などの金融不安が広がったことは記憶に新しい。14年度は消費税増税と補正予算剥落効果が重なるために、より厳しい財政デフレインパクトが発生することになる。重大な警戒をもって対処することが必要になる。
<プロフィール>
植草 一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測制度の高さで高い評価を得ている。また、政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。
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