2012年12月3日、福岡に前例なき企業体が誕生した。その名は(株)ヒューマンハーバー。株式会社だが、利益の最大化を目指すものではない。保護司として、18年目を迎える副島勲代表が掲げるのは「再犯のない社会の実現」。国や自治体から援助を受けずに民間企業がビジネスを通じて、社会を変えようとしている。いかにして、未来の犯罪を防ぐのか、副島氏に聞いた。
――会社設立のきっかけを教えてください。
副島勲氏(以下、副島) 刑務所から出てきた人たちに、働く場さえ与えればいいという考え方があります。ところがそれだけではどうしても足りないのです。身元引受人がしっかりしていれば、大きな問題はないのですが、そうでなければ、お金もない、泊るところもない、そして教育もされていない。つまり、この3つが一体となった仕組みを作らないと再犯防止にはつながらない。これが会社設立の原点にあります。
――では、具体的にはどのような事業を行なっているのですか。
副島 収益源は、主に建築現場から出るスクラップの回収、産業廃棄物の中間処理事業によるものです。本運動への賛同企業にスクラップや産業廃棄物の10%を従来の取引同様、適性価格で販売してもらっています。この資源リサイクル取引の利益により自立的支援を行なっています。社会問題解決のためとはいえ、ビジネスであるからには無償で提供してほしいとは言いません。寄付や援助を頼りにしていては、いざそれがなくなったとき、活動が停止してしまいます。持続可能であるためには、ビジネスとして成立させる必要があります。
――教育支援については、いかがですか。
副島 教育支援部門の「そんとく塾」では、出所後に当社で勤務している従業員に情報処理や一般常識などを教えています。世の中には、仕事に役立つ資格がたくさんありますが、受験資格は高卒以上が多いのです。元受刑者には義務教育までしか受けていない者も珍しくなく、教育水準は低い。そこで、高校卒業の資格・各種資格取得を目指しています。これを生きる術に直結させ、さらに学びの意欲を感じさせたいのです。なお、当社は最終就職先ではありません。半年から1年、再教育を受けて再就職させる。その仕組みを作っていこうとしています。
――設立から1年が経過しました。これまでを振り返っていかがでしょうか。
副島 賛同者も少しずつ増え、仕事も安定してきました。昨年12月に初めて単月で黒字を達成できました。今後、仕事量が増えると、大きな倉庫や重機が必要になります。取引先を開拓しつつ、設備投資することが今後の課題です。
――今後のビジョンをお聞かせください。
副島 当社から100人の人材を輩出させたいと考えています。再就職者ではなく、100名の経営者を育てたいのです。そのような経歴を持つ経営者がまた同じ境遇の人材を受け入れてくれる。この繰り返しで、すそ野が広がり、一段と再犯を減らすことができる。福岡でこのビジネスモデルが成熟すれば、全国に持ち出すことも可能だと考えています。
――その目標実現のために、社会に伝えたいことはありますか。
副島 当社の仕組みでは、ユヌス・ソーシャル・ビジネスの7原則に基づき、利益が出た場合、出資額までは配当がありますが、それ以上の配当はありません。しかし、出資することで世の中が良くなっていきます。またスクラップや廃棄物を10%だけ取引させていただくことで、未来の犯罪を防ぎ、被害者を減らすことができます。当社の努力だけでは、問題解決は難しいので、数多くの企業、そして関係者の皆様に協力してほしいと思っています。
▼関連リンク
・(株)ヒューマンハーバー
【取材メモ】
同社の取り組みに賛同する企業に話を聞いた。「副島氏の親心に共感できたから、賛同した。スクラップを回収してもらっているが、作業員の勤務態度は非常にまじめで、礼儀正しい。活動の輪が広がることを願っている」と第一電建(株)の高山幸治社長。
再犯率は出所後、仕事がある人に比べ、仕事がない人は5倍も高い。さらに犯罪数のうち、約6割が再犯者によるもの。この数字だけ見ても、同社の取り組みは社会的意義が高いと言える。
副島氏が示した二宮尊徳の言葉が印象的だった。
「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」
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