昨年夏、韓国で行なわれた釜山市長杯社交ダンス選手権で、ひとりの日本人女性が招聘ダンサーとして開会式を飾り好評を博した。社交ダンス教室コスモスアカデミー(福岡市東区)で経営・指導を行なう黒田陽子氏だ。元全日本ラテンアメリカンファイナリストとして海外の社交ダンス選手権で活躍した経験を持つ黒田氏は今まで様々な国々で踊ってきたが、釜山での経験から、「ダンスによって世界平和を訴えることこそ自分の使命」と感じ、現在、アルメニアでのイベントに向けて準備を進めている。
<政治的な諍いを乗り越えるダンスの魅力>
――釜山市長杯には、日本人ダンサーからは黒田さんおひとりだけが招聘されて参加されたそうですね。
黒田陽子氏(以下、黒田) ちょうど日韓関係が緊張していた時期でしたからお誘いを受けるかどうか、迷いました。日本人というだけで反感を買い、多くの観衆のネガティブな感情をひとりで受け止めなくてはならないのでは、と不安を覚えたのです。最初は「韓国には素晴らしい踊り手の方がいらっしゃるのですから、その方々にお願いして欲しい」と辞退しましたが、主催者の方に「我々が守りますから」と熱心に誘っていただいたので思い切ってお受けしました。すると予想とはまったく違って大絶賛でした。満場の拍手を聞きながら、「ああ、文化は政治とは無縁なんだ」と実感しました。
――そこでダンスについて、今までとは違う意識が芽生えた、と。
黒田 いさかいに惑わされることなく、人々に「感動」を伝えることができる、それがダンスなのだと改めて気づき、「感動」で心をひとつにできるのなら、それを平和活動に繋げられるのではないか、という思いがむくむくと沸いてきたのです。世界でいろいろなことが起こっているなかで文化を通じて平和を広めていくことを、これからの私の仕事にしていきたいと思いました。
<アララット山でアルメニア人有名ピアニストとコラボ>
――現在、国交が緊迫している地域でのイベント企画が進行中だそうですね。
黒田 アルメニアからの企画で、アルメニア人のピアニストとコラボしてイベントを行なおうというお話をいただいているところです。プロフィギュアスケーターの荒川静香さんともコラボをされた方だそうです。アルメニアとトルコの国境近くにはトルコ側に、ノアの箱舟が流れ着いたという山があります。アルメニア語ではアララット山、トルコ語ではアール山と言いますが、この山の領地権をめぐって両国間争いが生じています。アルメニアの人たちにとってアララット山は民族を象徴する山なのです。そのアララット山で踊ってみないかと。踊りを通じて訴えていけるものがあると思いますので、ぜひやらせていただきたいと考えています。
――かなり緊迫した土地での挑戦のようですね。
黒田 若いときはいかに選手権で受賞者となるか、ということばかり考えるような、勝ち負けの世界のなかにいました。しかし、だんだんと「勝ち負けに拘らない踊りの世界」を追求したくなり、選手としての活動を辞めました。その後、指導者として活動を行ない、依頼があればイベントなどでも躍らせていただいていたのですが、今は、少しでも平和に繋がるような活動を、規模の大小に関わる事なく、やっていこうと思っています。音楽でも踊りでも文化的なものは、心に訴えるものがあれば誰が接しても素晴らしいなあと思ってもらえますよね。それに気づかせてもらえた韓国では、いい経験をさせていただきました。これからは守られるなかではなく、人が難しいと感じるところで活動を行なっていきたいものです。
――そのような環境下の人々こそ、平和な文化活動を求めていますね。
黒田 本当は山頂で行ないたいのですが、政治的な問題が絡むので、許可が下りるかどうかはわかりません。実現には時間が掛かるでしょうが、ぜひやりたい。イベントの噂が両国に届き、誰かが心を動かしてくれるといいと思います。たった1人でも、涙してくれれば嬉しいです。
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