「高島市長は、飯塚のほうばかりに目が向いている」。各会派の福岡市議会議員を取材して回ると、野党議員から口々に出る言葉だ。高島市長が観光ばかりに力を入れて、市民の暮らしに目を向けていないという批判をかわすかのように、ある構想を打ち出している。
<解雇特区を再現する福岡市>
2月7日、午前8時から自民党本部で開催された日本経済再生本部と起業大国推進推進グループ合同会議のなかで、高島宗一郎福岡市長が「グローバルスタートアップ国家戦略特区構想」なるものについてプレゼンテーションを行なった。
福岡市は、昨年9月、国に対して「グローバルスタートアップ国家戦略特区構想」を提案している。今回のプレゼンは、その披露の場である。
福岡市が明らかにしている同構想の内容を見ると、解雇規制の緩和が謳われている。これは、批判を浴びて断念した「解雇特区」の再現に他ならない。
2013年12月13日の福岡市議会一般質問において、日本共産党の綿貫英彦市議が、永渕英洋経済観光文化局長に、このことを質している。
永渕英洋経済観光文化局長の答弁は次の通り。
「国家戦略特区につきましては、先般、国において日本再興に向けた国家戦略にふさわしいプロジェクトを組成するための提案、アイデアが募集されたものでございます。
福岡市は、開業率が政令市でトップであり、また、創業年数の短い、若い企業が雇用を多く創出しているとの調査結果もあるため、雇用を生む新たな企業を生み出す、いわゆるスタートアップを支援することを目的として、創業間もない期間に限り解雇規制の緩和や法人税の減免を提案しているところでございます。
解雇規制の緩和につきましては、労働基準監督署による監視体制の強化を図りながら、国でも検討されていた解雇ルールを明確にする事前型の金銭解決制度などを創業後の5年間に限り導入することで、正社員の雇用を促進することを提案しているものでございます。」
<日本の労使は信頼で結ばれてきた>
永渕経済観光文化局長の答弁にある、国が検討していた解雇ルールの明確化というのは、竹中平蔵氏ら民間議員による産業競争力会議で検討されてきたものだ。アベノミクスの第3の矢「成長戦略」で目玉としているのが、国家戦略特区構想である。
記者は、我が国の労使関係は、階級対立ではなく、経営者と労働者間の信頼関係によって築かれてきたものだと考えている。
現行の労働基準法は、解雇予告の手続を行なうことや解雇制限規定に反しないこと、合理的な理由があり、社会通念上相当であることが必要とされる。一方的な解雇規制撤廃は、働く者とその家族の生活不安を助長することになりかねない。
さすがに「解雇特区」は、所管する厚生労働省や連合など労働界はじめ与党議員からも批判が続出し断念に至ったが、高島市長は、多くの国民が反対していることを率先提案しているのである。これでは、飯塚(麻生太郎氏)のほうばかり向いていると批判されても仕方あるまい。要するに自民党へのご機嫌うかがいなのである。
高島市長は「福岡市といたしましても、一人でも多くの若者が将来に希望を持ち、安心して働けるよう積極的に支援をしてまいります」と述べているが、福岡市から解雇規制撤廃推進の旗を掲げるようでは、その言葉とは程遠い結果しか生まないだろう。
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