<生殺与奪権を握る大株主のダニエル・ローブ氏>
それではソニーは、どこへ行くのか。キーマンは、大株主の米投資ファンド「サード・ポイント」を率いる著名投資家のダニエル・ローブ氏だろう。ソニー株の6.5%の株式を集めたローブ氏は昨年5月、ソニーのエンターテインメント(エンタメ)部門の分離上場を提案した。ソニーは8月、エンタメとエレキの融合を目指すためには映画・音楽事業を100%保有し続けるほうがソニーの将来にとって有益であるとして、提案を拒否した。
ローブ氏は今年1月21日付けの投資家向け書簡で、ソニーに対する賭けが「期待はずれであった」と認めた。映画などエンタメ事業の分離上場案をソニーに拒否されたことについては「ソニーの株主にとって痛手となった」と指摘した。
平井社長に対しては、利益率の目標達成に向け「厳しい決断」を下すよう要求。「パソコンとテレビ事業の再編に向けた真剣な努力が必要だ」としてエレキ事業の再生に向けた改革を促した。
今期のソニーの最終損益は大赤字。収益目標が未達となったことで、今年の株主総会では株主提案を検討するとみられている。
<米ヤフー株を高値で売り抜けた荒業>
ダニエル・ローブ氏は1961年生まれ。コロンビア大学卒業後、米大手銀行シテイコープなどで働いた後、1995年にヘッジファンドのサード・ポイントを設立した。会社の経営者に対して、投資家として書簡を出すことで有名な「モノ言う株主」である。
荒業を見せつけたのは、米インターネット検索大手ヤフーの高値売り抜けである。ライバルのグーグルに敗れたヤフーは11年からCEO(経営最高責任者)の交代が相次いだ。12年1月にスコット・トンプソン氏をCEOに迎えたが、創業者のジェリー・ヤン氏が取締役を辞任するなど経営の混乱が続いた。
サード・ポイントは11年からヤフー株を買い進め5.8%を保有。ローブ氏はヤフーに宛てた書簡で、トンプソン氏が米ストーンヒル大学で会計学とコンピュータ科学の学士号を取得したとしているが、実際は会計学の学士号しか取得していないと指摘した。学歴詐称問題でトンプソン氏は12年5月に辞任。サード・ポイントからローブ氏ら3人がヤフーの取締役に就任した。
暫定CEOを経て、同業のグーグルから引き抜いた37歳の女性幹部のマリッサ・メイヤー氏がCEOに就いた。メイヤーCEOは13年7月、サード・ポイントからヤフー株式4,000万株を買い戻した。買い取り価格は1200億円。米メディアによると、サード・ポイントは600億円以上の利益を上げた。高値で売り抜けたサード・ポイントのローブ氏ら3人はヤフーの取締役を退任した。
<サザビーズやダウ・ケミカルに株主提案>
ローブ氏が次なる標的にしたのが、美術品のオークションで有名な競売大手のサザビーズだ。欧米メディアによると、13年8月時点でローブ氏が率いるサード・ポイントはサザビーズ株の9.3%分を取得。ローブ氏はライバルの競売大手クリスティーズに比べ売り上げが低迷していると指摘。「(会社の現状は)修復が必要な古典名画のようだ」と批判し、ルプレヒトCEOの辞任を迫った。
これに対して、サザビーズは敵対的買収者の議決権比率を引き下げる防衛策「毒薬条項(歩イズンピル)」を導入し、防戦に努めているという。
今年1月には、化学大手ダウ・ケミカルの株式を取得。成長速度が遅い石油化学部門のスピンオフ(分離)を検討すべきだと提言したと報じられた。
<ソフトバンクの孫正義社長を礼賛>
サード・ポイントは昨年11月、ソフトバンク株を1,000億円で取得した。発行済み株式の1%程度だ。ローブ氏は、1月21日付の投資家向け書簡でソニーの平井一夫社長に注文を付けたのとは対照的に、ソフトバンクについては「孫正義社長は企業の価値を高める世界有数の経営者」と礼賛した。
アナリストの分析をもとに、米スプリント買収で2~3兆円の相乗効果が見込め、ソフトバンクがそのうち6~7割を享受できるとの見方を示した。
ソフトバンクの孫正義社長が描く世界戦略にとって、米携帯電話3位のスプリントの買収に続いて4位のTモバイルUSを買収できるかが大きな意味をもつ。サード・ポイントはすかさずTモバイルUS株を購入した。業界再編による株価上昇を期待してのことだ。
ローブ氏の投資手法からみて、ソニーに対して、どう出るかは予想できる。音楽・映画のエンタメ部門の分離上場を株主提案する。それが認められない場合は、株主総会での委任状争奪戦(プロキシファイト)も辞さない対決姿勢を取ることもありうるということだ。
ソニーの外国人株主比率は約4割で、日本企業の中で高い。ソニーは解体されるのか。経済界の今年最大の注目点だ。
≪ (前) |
※記事へのご意見はこちら