<アベノミクスは短期的な政策の集まり>
――地方経済に大きな影響を与える日本経済全体についてお聞きします。先生は1980年代、日本経済研究センターで研究予測を担当していた頃、金森久雄氏(当時の会長)、香西泰氏(当時の理事長)と並び「楽観派3K」と言われていたとお聞きしています。その先生が、最近は「日本経済は本当に駄目なのではないか」と言われています。アベノミクスについてはどう思われていますか。
小峰 アベノミクスは短期的な政策の集まりと考えています。金融緩和にしても、公共投資にしても、長期的にやり続けることはできません。公共投資は財政赤字が増え続けるのでもちろん問題ですが、その他の政策についても止めた時に大きな反動が出て、急激に落ち込む可能性があります。今は、短期的政策を優先するにしても、並行して、長期的視点からの政策を考えていく必要があります。
私は人口問題と財政問題が大事と考えています。財政は間違いなくこのままいけば破綻します。今まで、エコノミストたちは「破綻するのか、しないのか」を議論してきました。しかし、現在では、破綻することが前提で「いつ破綻するのか」「どのように破綻するのか」を議論しています。
同じように大事なのが、危機的とも言える人口問題です。少子化、高齢化が進み、全人口に占める働く人の割合がどんどん下がっているのです。
<人口が原因となる問題はすべて「人口オーナス」の問題>
――人口問題と言えば、先生は日本全体に「人口オーナス」現象が進行中であると言われています。人口オーナスについてご説明いただけますか。
小峰 日本の人口がこれから大きく変化していくということは多くの皆さんが知っています。では、どのように変化するのかをお聞きした場合、その答えは、人口減少、高齢化、少子化の3つに分かれます。私は、その3つ以上に大事なポイントは、人口に占める働く人の割合と考えています。この割合が高くなることを「人口ボーナス」、低くなることを「人口オーナス」と言います。
少子化が始まると人口が減ることになります。人口が増えていくときには、人口ピラミッドは綺麗な三角形をしています。しかし、人口が減って行くときは、このピラミッドの底辺が狭くなります。さらに進むと、今まで広かった底辺が真ん中あたりに移動し、中膨れ状態になります。ちょうど、ビヤ樽のようなかたちです。この状態を人口ボーナスの状態と言います。新しく生まれる子どもの数が減り、老人も減り、働く人が増えます。日本の高度経済成長時代や現在の東アジア諸国はこの時期にあたります。
人口が減少していくときは、人口が1回だけボーナスをくれます。しかし、さらに進むと、この中膨れ状態が上に移動し、人口ピラミッドは逆三角形になります。この状態を人口オーナスと言います。そしてこの状態は、少子化が解消されない限り永遠に続きます。日本は1990年代から人口オーナス状態が続いています。
私は人口が原因になって起こる問題のすべては、「人口オーナス」の問題であると考えています。働く人が足りなくなるのも、社会保障制度等が行き詰まるのもすべてです。2050年になると、日本の人口オーナスの度合いは世界一になると言われています。
<女性の社会進出を拒む日本のメンバーシップ型雇用>
――この人口オーナス問題を乗り切るためには、どのような政策が必要ですか。
小峰 そのシナリオは明確にわかっており、4つあります。1つ目は、日本は世界で一番少子化対策に力を入れなければならないということ。2つ目は、世界で一番年金の支給開始年齢を遅くしなければならないこと。3つ目は、世界で一番女性が仕事をする国でなければならないこと。4つ目は、世界で一番外国人を受け入れる国でなければならないこと、になります。本当にやらなければならないことと、今やっていることに大きなギャップがあります。
人口オーナスを改善する特効薬の1つとして、女性の社会進出があります。しかし、ここにも問題があります。現在の雇用環境で女性の社会進出が増えれば、さらに少子化問題に歯止めがかからなくなるのです。それは、日本の会社の雇用形態の多くは、ジョブ型(就職型)ではなくメンバーシップ型(就社型)が多いからです。女性が子どもを産むために会社を休職した場合、実質的には同じような環境で会社に戻ることが難しくなります。そこで、産むか産まないかを思案することになるのです。
<プロフィール>
小峰 隆夫(こみね・たかお)
法政大学大学院政策創造研究科教授、日本経済研究センター 理事・研究顧問。1969年東京大学経済学部卒。同年経済企画庁入庁、経済企画庁長官秘書官、日本経済研究センター主任研究員、経済企画庁調整局国際経済第一課長、同調査局内国調査第一課長、経済企画庁審議官、経済研究所長、物価局長、調査局長、国土交通省国土計画局長を経て現職。著書として、『政権交代の経済学』『人口負荷社会』『日本経済論の罪と罰』等多数。
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