<イベント頼みの地域起こしは一過性で終わる>
――日本全体の経済から話を地方経済に戻します。先生は、地域再生は「公共投資」に頼るのではなく、「地域主導」でしっかりやるべきだと言われています。
小峰 今進められている公共投資は、建前は安全な都市をつくる「国土強靭化」という供給効果を狙ったものですが、本音は公共投資のもう1つの効果「事業をするとお金が落ちる」という需要効果を狙っているように思えます。公共投資そのものをたくさんやりたいように思えるのです。悪いことに、日本の公共事業はほとんど建設公債で賄われております。そのために、その費用はほとんど、政治家にも、官僚にも、国民にも意識されずに、将来世代に先送りされてしまうのです。この点でも、財政赤字に拍車をかけることになります。
私は、これは地方に一時的にお金が落ちて元気になりますが、そのことがかえって、地方が地域主導で自力再生していくための活力を奪い、逆効果になることを危惧しています。
たとえば、ある地方が大河ドラマに取り上げられると、一時的に観光客でとても潤うことになりますが、次の大河ドラマが始まるとパタッと観光客は来なくなってしまいます。そのとき、地域としての経済的軸足がしっかりしていなければ、今まで以上に落ち込んでしまうことになります。イベント頼みの地域起こしは一過性です。オリンピックも同様で、1964年のすぐ後に日本が大きな不況に陥ったことはご存じの通りです。
<最終リスクを背負うのは首長しかない>
――どうしたら、地域主導型の地域再生は可能でしょうか。
小峰 小泉改革の後、地方への公共投資も大きく減り、危機感を覚えた先進地域・都市は、自分たちの資源を見直し、何とか自力再生しようという動きをしました。これらの都市の多くは今でも継続して尽力されていると思います。
実は、この自力再生も口で言うほど簡単ではありません。私もよく、「自分の地域を活性化するのにはどうしたらよいか」というご質問を受けます。理論的、経験的に参考となる一般論はお話しできるのですが、その個々の地域の詳細事情を知らずに直接的な解答はできません。やはり、決断してリスクを背負う首長に任せる以外に方法はありません。
全国で有名な成功例は複数あります。そして、成功した市町村には、全国の多くの首長が訪れています。しかし、参考にはできても、そのまま自分の地域で同じことを真似て実施しても成功はしません。
たとえば、私も訪問しましたが、少子化対策に早くから取り組み、現在出生率が2前後と全国平均を上回る長野県下條村があります。ここでは、村長のリーダーシップが素晴らしく、村職員の数を減らして財源を見つけたり、国の補助金を頼らずに住む若者を村独自で選んだり、いろいろな試みをやっているのです。
<地方都市は、選択と集中を 地道に推進することが重要>
――いろいろなことを数多く教えていただきました。地方公共団体は地域経済再生を含め、今後どのようなことを考えていくべきなのでしょうか。
小峰 都市部と地方部で違うのですが、やることは決まっています。都市部は集まってきた人間に対していかに暮らしやすいサービスを提供できるかを考えることが大事です。
一方で地方部、とくに過疎地を抱える地方都市は、選択と集中を地道に推進することが重要です。全地域を助けるのは難しくなると思いますが、工夫と努力次第で、少しでも多くの地域を助けることができると思います。重要なのは、自分のところの独自の地域資源を認識することだと思います。
――ありがとうございました。
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<プロフィール>
小峰 隆夫(こみね・たかお)
法政大学大学院政策創造研究科教授、日本経済研究センター 理事・研究顧問。1969年東京大学経済学部卒。同年経済企画庁入庁、経済企画庁長官秘書官、日本経済研究センター主任研究員、経済企画庁調整局国際経済第一課長、同調査局内国調査第一課長、経済企画庁審議官、経済研究所長、物価局長、調査局長、国土交通省国土計画局長を経て現職。著書として、『政権交代の経済学』『人口負荷社会』『日本経済論の罪と罰』等多数。
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