安倍首相が昨年12月26日に靖国神社を参拝したことをめぐり、近隣諸国や米国などから批判が相次いだが、首相側近である衛藤晟一首相補佐官が「失望」を表明した米国政府を批判する動画をYouTubeに投稿していたことが明らかとなった。衛藤氏は、19日、投稿していた動画を削除した。
動画は、2月16日に公開された。そのなかで衛藤氏は、「米国が『disappointed』(失望した)と言ったことについて、むしろ我々のほうがdisappointedという感じだ。米国は同盟関係の日本を、なぜこんなに大事にしないのか。米国がやっぱりそういうなかで中国にものを言えないようになりつつある」と発言していた。
衛藤氏は、第1次安倍政権で、教育基本法改正を進めるなど、安倍首相とは思想的に近い。小泉政権時、郵政民営化に反対して造反。刺客を立てられて落選したが、その窮地を救ったのが安倍首相だ。自民党への復党を認めたのも安倍首相である。
昨年12月26日の靖国神社参拝を推進したのは、衛藤氏と総裁特別補佐の萩生田光一氏だと云われている。衛藤氏、萩生田氏も共に、靖国神社参拝を推進している保守系団体「日本会議」のメンバーで、超党派の国会議員が加盟している同国会議員懇談会にも所属している。日本会議の歴史観は、先の大戦は、植民地支配にあえぐアジアの解放と白人国家に対する自衛戦争だという認識だ。戦勝国で構成するGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の占領政策で大きく歪められ、日教組などにより自虐史観を押し付けられたという考え方をしている。
だが、その靖国神社は、明治維新以来、勝者のみを祀っているという矛盾も抱えている。維新の立役者の1人であり、今もなお多くの日本人から敬愛されている西郷隆盛や戊辰戦争で散った会津藩士などは祀られていない。どちらも明治の政府権力側に刃向かったからだ。
かねてよりの衛藤氏の本音が表れたのが、削除された動画における発言だろう。どの国においても戦没者の慰霊は行なわれている。追悼の誠を捧げること自体に、外国の干渉を受ける筋合いはないとはいえ、微妙な日米関係と自ら削除した経緯を考えると、官邸の一員としての立場を軽率に逸脱したことは否めない。
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