NET-IBでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、仲井真知事による埋め立て申請承認発表と時を合わせて靖国を参拝し、アメリカとの繋がりを見せつけようとした安倍晋三首相の誤算について解説。今、安倍政権が下り坂となりつつあることを指摘する、2月19日の記事を紹介する。
安倍晋三首相に現在の日米関係がどのような状態にあるかを問うならば次の答弁が帰ってくるだろう。「日本とアメリカの間にすきまはあるが、まだ風は吹いていない」あるいは、口八丁の安倍晋三氏だから、「日米同盟は深化している」と居直るのかも知れない。
しかし、現実はどうか。
日本と米国の間にははっきりとすきま風が吹いている。そして、その風は次第に強まりつつある。明確な転換点になったのは安倍晋三氏の靖国参拝である。安倍政権は米国の対応を完全に読み誤った。
安倍氏の靖国参拝を強力に推進したのは、衛藤晟一首相補佐官(国政の重要課題担当)と飯島勲内閣官房参与であったという。現代の情報氾濫時代にあって、コンフィデンシャル情報分野の情報誌として一頭地を抜いている『月刊FACTA』最新号が、安倍政権の二元外交の実態を伝えている。安倍首相は米国の反応を完全に読み誤り、靖国参拝で大失点を計上してしまったようだ。
私は本ブログ・メルマガで、安倍政権凋落の兆候を記してきた。
衰颯(すいさつ)の景象(けいしょう)は、
就(すなわ)ち盛満(せいまん)の中(なか)に在り
発生の機緘(きかん)は、
即(すなわ)ち零落(れいらく)の内(うち)に在る
衰退の兆候というものは
即ちその絶頂の中に在り、
立ち直りの兆しというものは、
どん底の中に顕在化している
という『菜根譚』の言葉を紹介してきた。
私が気に留めたのは、昨年12月30日の東証大納会での安倍晋三氏発言である。
「アベノミクスは来年も買い」と高揚感を覆い隠せなかった。ここは、「株価がいかなる変動を示そうともアベノミクスを成功に導く」と言うべきだった。
慎重に予防線を張ることがリスク管理の王道である。浮かれては足元をすくわれるのである。安倍氏は沖縄県知事の仲井真弘多氏をねじ伏せて、辺野古海岸埋め立て申請を承認させた。徳洲会事件捜査を恐らくブラフ(脅し)として、ちらつかせたのだろうと思うが、筋が悪い。なぜなら、沖縄では1月19日に名護市長選が実施されることになっていたからだ。市長選を待って、名護市民が基地建設承認の意思を表示したら、その意思表示を受けて県知事の埋め立て申請承認を得ればよい。基地移設で何よりも大事なことは立地自治体住民の同意である。これが一番大事だ。
原発を作るときに、地元自治体の同意を得ずに原発を作ることがあり得るか。あり得ない。
私は原発自体に反対で、即時ゼロを求めているから、原発新設など問題外だが、仮に作るという話が浮上したとして、立地を定めるときに、いかなる原発推進派といえども、立地自治体の同意を得ないで建設を強行することはあり得ないだろう。つまり、名護市長選はそれほどの重みのある主権者の意思表示なのである。
だからこそ、安倍政権は名護市長選に総力戦で取り組んできたのだ。札束で住民のほおを叩いてねじ伏せようとしたのも、このためだった。いかなる謀略工作を展開したにせよ、地元自治体の意思は重い。仲井真知事に対して、埋め立て申請を承認させるための工作を演じるにせよ、結果を出させるのは、あくまでも名護市長選の後という選択以外に、取るべき道はなかった。確実に市長選で勝利できる確証があったなら、安倍政権は埋め立て申請承認を市長選の後に設定しただろう。
しかし、市長選の結果に自信を持てないからこそ、市長選の前に仲井真氏に埋め立て申請承認を出させたのであると思われる。そして、辺野古基地建設を既定事実化して、名護市長選での基地建設容認候補の当選を獲得しようとしたのだろう。
しかし、それは理由としては通らない。超えてはいけない一線を越えてしまっていたのだ。こうした、根本的な判断の誤りが政権を瓦解させる契機になる。沖縄に足を運んで稲嶺進名護市長と膝を交えて会話をしたキャロライン・ケネディ駐日大使の方が正統な判断を示すようなことにでもなれば、安倍政権と仲井真知事のご判断が一気にクローズアップされることになりかねない。
安倍氏は、仲井真知事による埋め立て申請承認発表と時を合わせて靖国を参拝した。辺野古埋め立て申請承認とセットなら、米国の反発を招かないと読んだのである。しかし、これが、とんでもない読み違いだったのだ。そして、仲井真知事による埋め立て申請承認自体が、あまりにも「筋悪」だったのだ。
※続きは、メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第794号「沖縄・靖国・NHK&政策逆噴射で揺れ始める安倍政権」」で。
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