地域のポテンシャルを活かし世界を見据えた新しいまちづくりを
ここ福岡ではアクロス福岡の設計者として知られる、世界的に著名な建築家の有馬裕之氏。そして"世界一の庭師"としての地位を確立したランドスケープアーティストの石原和幸氏。両氏は、いずれも世界の第一線で活躍して数々の実績を残してきており、それぞれの分野の作品にとどまらず、さまざまな都市計画などにも携わっている。今回、2人の対談を通じて、地域・地方が今後、いかにして各々の地域力を高めていくべきか、探った。
有馬裕之氏(以下、有馬) これから地方の場合、まず考えたいのが、現状をきちんと認識すること、そして拡大型ではなく、いかに調和していくかということです。すでにあるものを否定するのではなく受け止めたうえで、すでにさまざまなプログラムを総合的に考える段階、要するに経済とか政治や文化をトータルで、デザイナーとか地域の人々が考える段階に来ています。しかし、東京のモデルの発展型、集中型のモデルを福岡に移管しても、あまり意味はないだろうということが前提にあるわけです。
これまでの都市は拡大を目標としてきましたし、今でもまだ目指しています。でも、今後日本は、縮小するモデルを考え始めなきゃいけないと思います。縮小というのは、悪い意味の縮小ではなくて、都市一極集中型をやめて、逆に新しい感覚の、他にはないまちを創造するなど、東京にはない違った文化基盤を持つことです。これによって、良質感のある環境性と融合された新しい都市モデルが、たとえばまさにこの福岡をはじめとして九州にできるんじゃないか、というものです。そしてダイレクトに世界につながる。
同じように、日本の縮小するモデルというのは、造園家として、建築家として、今後取り組まなければならないプログラムですが、そこについては、アカデミズムも実効的なことはほとんどやられていませんし、もっと言えば、ビジネスの世界はその観点からはまだまだ遠いです。そして、過去のモデルが変化に対応できていません。
石原和幸氏(以下、石原) 私もそう思いますね。私は2008年にリー・クアンユー氏から招待を受けまして、今、シンガポール政府の仕事に携わっています。世界で仕事をしていると見えてくるのは、やはり「東京か、福岡か」という議論の前に、もっと世界が動いていることに目を向けなければならないということです。東京と比較しての福岡ではなくて、世界的に見て「福岡じゃないとダメなんだ」と考えるのです。東京を見るという話ではなくて、「65億人がマーケットなんだ」と意識を変えなければなりません。極端な話、どうやったら福岡に65億人を呼び込めるか、です。
私は今、福岡市のアイランドシティの花緑アドバイザーに任命されていまして、アイランドシティを見て、そしていろいろな方々と緑化のデザインをしていくなかで、「緑を増やせば良い都市ができるというのは大間違いだ」と言っています。たとえば、緑化を行なうとその後のメンテナンスが必要かつ大変だと思われがちですが、「今後はメンテナンスはゼロだ」とか、「メンテナンスをしないデザインもあっていいよね」というような発想もあるのです。そういった、根本的な概念を変えていくまちづくりの考え方もあります。
それには、まず優秀なリーダーが必要です。優秀なリーダーがいれば、世界から人もお金も集まる時代だと私は思います。やはり、東京じゃなくて「福岡は良かばい」というまちをどうつくるかということ、建築も緑も政治も交通も含め、そういうことを考える時期ではないでしょうか。
有馬 しかし福岡というのは今のところ、まだまだ東京を目指しているじゃないですか。
石原 それが間違っていますよね。
有馬 私もまったくそう思います。すでに地方は東京を目指す段階を終えています。もっと個性を形成して行く段階にならねばなりません。福岡に住みながら海外でいろいろな仕事をさせていただく流れのなかで感じるのは、「何で、もっと福岡の面白さを創造し発見し世界とつながらないんだろう」ということです。
石原 そうですね。今までは太平洋側の都市が発展していましたが、これからは日本海側の方がものすごいビッグチャンスがあるように思います。そして、福岡はライフラインも発達していますし、そんなに雪が降るわけでもありません。1年中戦えます。そう考えると、福岡はものすごく可能性があるまちだと思います。
そういったなかで、どういったデザインをすべきかとか、どういうまちづくりをすべきかというのは、東京が云々ではなくて、福岡のポテンシャルをグローバルに見て、「これだったら世界に勝てるな」というところにあります。
有馬 むしろ東京とは違う地域の面白さ、それを専門家として、いかに発掘するかのプログラムを、そろそろ本格的にやっていかなくてはいけないということですよね。
石原 私は、やはり福岡の良さは、人間だと思いますね。地元に生まれ育った人たちが多く、ハートがある。そして文化もできやすい。東京という都市は、投資で成り立っている都市ですから、要は地元の人が少なすぎます。
有馬 言葉は悪いですが、東京は要は大きな田舎町ですよね。
石原 そして、福岡は小さな都会だと思うんですよ。地元にもともと住んでいる方が大半で、山笠とか伝統的なものもすばらしいじゃないですか。そういうものがあって、それをみんなが待ち焦がれるような場所で、自分が生まれ育って歳とっていくというのは、すごく魅力的なまちだと思うんですよ。ですから私は、そういったことも考えながら、緑化というところを考えていきたいと思っています。
有馬 緑化もですが、建築も含めた両方の調和的文化的バランスも大切。それがバランス良く生まれたまちと言うのが、江戸時代なんかには地方にかなりあった気がするわけですよ。ですが、それが破壊されて、しかもその価値が建築主体の方に効率開発優先として寄り過ぎたじゃないですか。それをもう一度戻すというのが、地方ではよりやりやすいように思います。過去の日本の地方はそれぞれが優れたサスティナブルな場所だったわけで、地方でそれを再発見して世界を見るという視点もあります。
石原 東京を見るのではなく、もっと世界を見なければなりませんね。
有馬 日本のなかでは、相変わらず、東京があって地方がどうこうということが、昔も今も言われていますが、もうすでにそのような日本国内だけの時代ではない。「世界のなかでの福岡とは...」という視点がますます必要になります。これはすでに実行していかねばならない状況です。
私は今、ロシアやモンゴルなどの発展途上の場所で活動をしていますが、いつも感じるのはそのようなまだまだ発展していない、何もないところから考察している人たちの方が私たちよりエネルギーや緑化などを深く考えているということです。その意味で、我々に何か学ばせてくれる...そのような感情を持つんですね。もはや先進国や後進国などと言っている場合ではなく、まだまだこれからの地域―でもそこには新しいことを産み出そうとする人たちがいて、そういう人たちとの交流を通じて何か福岡のような地域からグローバルなことができないかと思うのです。そして、それがグローバルということであり、芸術家とか建築家、造園家が今やらねばならないことでは...と思うんですね。そういうことにますます取り組めたら面白いかなという気がしています。
| (後) ≫
<プロフィール>
石原 和幸 氏
1958年長崎県生まれ。庭園デザイナー。(株)石原和幸デザイン研究所代表。22歳で生け花の本流『池坊』に入門。苔を使った庭での独自の世界観が国際ガーデニングショーの最高峰である「英国チェルシーフラワーショー」で高く評価され、2006年から異部門で史上初の3年連続金メダルを受賞した。そして12年、13年はア−ティザンガーデン部門で金メダル、さらに部門内1位に贈られるベストガーデン賞と併せて2年連続W受賞を果たし、計5つの金メダルを獲得。また日本の玄関口でもある羽田空港(第一ターミナルビル内)に受賞作品「花の楽園」を再現、東北をはじめとする日本の風景の美しさをアピールし続けている。現在、全国で庭と壁面緑化事業を展開し環境保護に貢献すべく活躍中。著書「世界一の庭師の仕事術」「緑のアイデア」(WAVE出版)。DVD「石原和幸のChallenge of Green」。
<プロフィール>
有馬 裕之 氏
1956年、鹿児島県生まれ。京都工芸繊維大学卒業後、80年に(株)竹中工務店入社。90年「有馬裕之+Urban Fourth」設立。さまざまなコンペに入賞し、イギリスでar+d賞、アメリカでrecord house award、日本で吉岡賞など、国内外での受賞暦多数。さまざまな地域活性の町づくり委員も務める。作品群は、都市計画から建築、インテリア、グラフィックデザイン、プロダクトデザインなどさまざまな分野におよび、日本・海外を含めたトータルプロデュースプログラムを展開している。
※記事へのご意見はこちら