地域のポテンシャルを活かし世界を見据えた新しいまちづくりを
ここ福岡ではアクロス福岡の設計者として知られる、世界的に著名な建築家の有馬裕之氏。そして"世界一の庭師"としての地位を確立したランドスケープアーティストの石原和幸氏。両氏は、いずれも世界の第一線で活躍して数々の実績を残してきており、それぞれの分野の作品にとどまらず、さまざまな都市計画などにも携わっている。今回、2人の対談を通じて、地域・地方が今後、いかにして各々の地域力を高めていくべきか、探った。
有馬裕之氏(以下、有馬) たとえば、都市における無駄ってどう思われますか。ここで言う無駄というのは、今、問題になっている行政や財政の無駄という意味ではなく、「文化的余裕」「遊び」という意味なんですが、そのような意味で東京における無駄と、地方都市における無駄というのは、私は明らかに違うように思うんですよ。そして、そこが面白いと思うんですよ。無駄というのは、決してダメという意味の無駄ではなく、その無駄、言い換えると余白によって、福岡らしさが表れたり、その都市らしさが表れたりするようなものだと思います。効率普遍型から個性多様性を求める段階だということなんですが。
石原和幸氏(以下、石原) そうですね。そういった無駄というものは必要です。それともう1つ、私は、学校の役割もすごく大事だと思います。広く世界中から優秀な人を集めるような。ですから私は、大学をベースにしたまちづくりというのもあっていいんじゃないかと。さらにもっと言えば、"遊び"という要素が必要だと思います。
有馬 そうですね。遊びという要素は重要です。「遊芸都市」という考え方ですね。遊芸というのは遊びや学びに溢れ、そのような文化的無駄を許容して世界に向かって開かれるということです。今の、大学をつくるとかいう話も、それこそまさに都市における遊び。そして、余白という意味での、意味ある無駄ということです。
でも、そういった表に見えてこないようなところの遊びや無駄が、世界からいろいろな学生たちを呼んだり、優秀な人を集めたりします。たとえば、シリコンバレーなんて遊びだらけじゃないですか。Googleだって、本社に行ってみたら、「こいつらは、いつ仕事をしているのか」というくらい遊んでいます。そういったような要素を取り入れるのは、地方というか、地域の方ができやすいと私は思っているのですが、どう思いますか。
石原 それは、できやすいというより、私は施策でやるべきだと思います。要は、人でしかまちは変えられません。人がいるから、そこにみんなが集まる。実際に、「都市はもう人でできているんだ」というような概念から、私は考えていいんじゃないかと思います。
有馬 もう1つ、これは先ほどの学校や教育といったものの延長にあると思うのですが、やはり知的なものです。知的というのは今流行のスマートシティのようなテクノロジーという意味ではなく、それはそれで進めることは必要なのですがそれだけでは駄目で、「考えたり」「創造する」ということを誘引するインテリジェントなものが集中するまちづくりということです。何かそういったことをイメージ戦略で打ち出してほしいように思います。
たとえば、アメリカのカリフォルニア州に「ラホヤ」という都市があります。そこは、すごくいろいろなリサーチパークみたいなかたちになって、いろいろな世界のトップレベルの研究所があるけれど、すぐ近くにはマリンスポーツなどの遊ぶところがあったり、植物園があったりと、みんなが世界からここに頭を休めに来て、勉強して、かつすばらしい研究をやっている...結果的に、ニューヨークやロサンゼルスにない魅力的なエリアになっている。それは、日本における東京ではない地域の場所での可能性の意味がよくわかるわけですよ。
石原 私は、やはり100年後を想像してランドスケープをやるべきだと思います。たとえば、各専門家の方々が「100年後、こんなまち」という想いをそれぞれぶつけ合い、「福岡チーム100年」というクラブをつくって、喧々諤々やりながら、「こうなったらいいよね」というような案をつくってみんなに見せる。そして、見せたら実際にそこに向かってそれぞれが動き、福岡全部のランドスケープをやっていく、と。
有馬 それは同感です。そのようなスパンで進めることがこれからも必要でしたし、さらに今後重要になるでしょう。またそこには外部からの視点が必要です。私は福岡に長く住んでいますが、福岡出身ではありません。いろいろと気づくことが多い。まったく違った視点で見ることができる。そういった外部からの視点として福岡を見たとき、たとえばこのまちは海に対して閉じすぎていることに気づきます。博多湾の積極的な利用ができていません。たとえば、海とうまく融合しているまちとしてはベネチアが有名ですが、海を町に取り込んで他にはない独自性のある町を人工的につくり上げました。ただ、あのまちは、ルネサンス時代の前から、民族移動でマジャール人に攻められた人たちが逃げて、避難エリアでつくった人工のまちです。でもそういったネガティブな要素を逆にプラスに持って行って、世界のトップクラスの水のまちをつくったじゃないですか。考えてみるとそれは、日本の江戸なんかも、昔は都市部にまで運河が入っていて極めて水と都市が融合していた。昔の江戸時代の時代劇なんかを見ると、だいたい水路があって、斬られた浪人は水に落ちるのに、最近は落ちる水がないという(笑)。つまり、東京も今では全然水を活かせていない。現在の東京は、改造が不可能なほど複雑になり過ぎました。経済と市場原理が中心で、水や海などには意識を持てない。すでに限界を迎えています。しかし、そのようなことはむしろ福岡ならできると私は思うんですよ。
石原 私は、やはりこれからの100年というスパンを考えたときに、たとえばベトナムでは人々がみんな自転車からバイク、バイクから車となったように、100年後というのは今とは劇的に変わっているように思います。おそらくそれは、すべての物があふれていて、趣味に生きる時代になっているのではないでしょうか。
有馬 そう、まさに文化の創造を世界と共に共有して生きる時代です。
石原 そういったなかで、福岡は何なのか―。たとえば、イギリスにコッツウォルズというまちがあります。そこはガーデンのメッカで、月曜から金曜まで働いて、土日はコッツウォルズで過ごすというのが、イギリス・ロンドンの人々にとってはオシャレであり、金持ちの方々にとっては普通なんですよ。もちろん趣味で庭が好きな人がコッツウォルズには集まるんですが、そのほかにヨットが好きな人、車が好きな人、自分の趣味に応じて、そういったまちに週末は住むんです。
有馬 地方に住みながら中央に目を光らせるという、カントリージェントルマンという概念にも通じます。
石原 そういった文化都市を福岡がどうつくっていくか。福岡も一括りじゃなくて、たとえば庭園は久留米のエリアにはガーデンシティがあって、福岡市には世界一のヨットハーバーがあってとか、そういったことをグルーピングして、まちづくりを考えていきたいですね。
ですから、今日私が思ったのは、東京に対抗するというのではなく、「世界に誇れる新たなまちをつくりたい」と、それだけなんです。お互い、いろいろなところで、一緒に何か作品をつくっていきたいですね。
有馬 それも生きた作品をですよね。人に寛容な都市。人を排除せず、メッセージを世界に発信する。クリエイティブが生むソフトパワーが重要です。たとえば、ヨーン・ウッツォン氏という建築家が08年に亡くなったのですが、彼がつくった建築で一番有名なのが、シドニーのオペラハウスなんですね。それが07年に世界遺産になったんですよ。デザインのかたちが都市のイメージを決めた好例ですが、重要なのはその建物文化が建物だけに終わらずに、交流の拠点としてソフト化し、都市を蘇らせ文化的に成熟させ世界へ向けて観光のシーンを創造していることです。それってある意味、我々の夢じゃないですか。そういうことをやりましょうよ。
石原 世界遺産というか、要は人類の遺産をつくりたいということですよね。後世の地図に残るような、新しい風景、新しいまちをつくっていきたいですね。
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<プロフィール>
石原 和幸 氏
1958年長崎県生まれ。庭園デザイナー。(株)石原和幸デザイン研究所代表。22歳で生け花の本流『池坊』に入門。苔を使った庭での独自の世界観が国際ガーデニングショーの最高峰である「英国チェルシーフラワーショー」で高く評価され、2006年から異部門で史上初の3年連続金メダルを受賞した。そして12年、13年はア−ティザンガーデン部門で金メダル、さらに部門内1位に贈られるベストガーデン賞と併せて2年連続W受賞を果たし、計5つの金メダルを獲得。また日本の玄関口でもある羽田空港(第一ターミナルビル内)に受賞作品「花の楽園」を再現、東北をはじめとする日本の風景の美しさをアピールし続けている。現在、全国で庭と壁面緑化事業を展開し環境保護に貢献すべく活躍中。著書「世界一の庭師の仕事術」「緑のアイデア」(WAVE出版)。DVD「石原和幸のChallenge of Green」。
<プロフィール>
有馬 裕之 氏
1956年、鹿児島県生まれ。京都工芸繊維大学卒業後、80年に(株)竹中工務店入社。90年「有馬裕之+Urban Fourth」設立。さまざまなコンペに入賞し、イギリスでar+d賞、アメリカでrecord house award、日本で吉岡賞など、国内外での受賞暦多数。さまざまな地域活性の町づくり委員も務める。作品群は、都市計画から建築、インテリア、グラフィックデザイン、プロダクトデザインなどさまざまな分野におよび、日本・海外を含めたトータルプロデュースプログラムを展開している。
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