<国家の強力な司令塔と盾で、サイバーセキュリティ立国を>
一方、安倍政権が推進する「国家戦略特区」における情報セキュリティの確保も欠かせない。アベノミクスにとって、国家戦略特区は地域に成長産業を呼び込むうえで極めて重要である。地域の特性を活かすとともに、内外の頭脳、技術、アイディア、資金の結集を図ることで、日本経済の新たな展開が期待できるからだ。特区構想は、先駆的取り組みを支援するため、規制撤廃、税制、財政、金融上の優遇措置を講じるもの。
その成否のカギを握るのが、情報セキュリティであろう。戦略特区を成功させるためには「電気・水道・交通」等の社会インフラと同様、防御可能なセキュリティ対策が整備されなければならない。そうした保障がなければ、知的財産や先端研究を扱う研究機関や企業は進出をためらうに違いない。データの改ざんや抜き取りをいかに防ぐか。国家の命運をも左右する命題である。
その観点から、いわゆる「第3の矢」の成長戦略に「サイバーセキュリティ立国」を取り入れねばなるまい。サイバー犯罪対策は、2020年東京オリンピックの成功にも欠かせない。「情報セキュリティ政策会議」を主導する総務省では、「顔が見える外交」の一環として、国際的なサイバー空間の規範形成をリードするという。しかし、現状では、民間企業も政府部門(内閣官房、総務省、経産省、防衛省、警察)もバラバラの対策を講じている。ここは国家の強力な司令塔と盾が必要である。
<世界各地で頻発するセキュリティ事件>
なぜなら、世界各地で驚くべきセキュリティ事件が頻発しているからだ。イランではスタックスネットによって核開発の制御システムがダウン。サウジアラビアではシャムーンによってアラムコがサイバー攻撃の標的に。中国やロシアのハッカーやサイバー攻撃部隊の存在も大きな脅威となっている。2013年12月、アメリカの大手小売業のターゲット社は顧客7,000万人のカード情報を自社のデータベースから盗まれた。我が国でも、衆参両院の公務用PCから全議員のID、パスワードが流出した。その他、日本の政府機関や企業が標的とされるウィルス感染事件も多発中である。
なかでも「APT攻撃」(特定の組織や個人を狙い、さまざまな手段を組み合わせて継続的に行なわれる標的型攻撃に一種)は暗号ポートを利用し、制御システムにも攻撃のタネをまくのが特徴で、このところ急増している。制御システムはオフラインが多く、スタックスネットはメンテ用のUSBから暗号ソフトを注入した事犯と見られる。NSA(アメリカ国家安全保障局)やCIAの内部告発で、コンピュータメーカーの協力の下、PCやUSB端子、コードにチップを埋め込み、電源オフでも高周波無線を使い盗聴している事実が明るみに出たばかり。
また、カスペルスキーが今年2月に公表した報告書によれば「カレトと呼ばれる新型マルウェアはウィンドウズやマックOSX、リナックスをはじめiOSやアンドロイドも手玉に取る優れモノ」とのこと。これを使えば、スカイプやWi-Fi上の情報や通話をすべて盗聴できる。これでは個人のプライバシーも企業の機密も筒抜けだ。
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
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