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闇を失うとは日本人の感性を失うこと
書評・レビュー
2014年2月25日 15:36
「闇学」入門(中野純著 集英社新書)

 この本を読めば、原発問題や電力不足の問題が嘘のように一挙に解決できる。とは言っても、電力代替エネルギーを紹介する本ではない。また、昨今はやりの「陰謀論」でもない。

<仕事の9割が闇関連と言う「闇の案内人」>
 中野純氏は、偶然のミッドナイトハイクに魂を奪われて以来約20年、闇に関する本を執筆、大学の授業やカルチャーセンターで闇を案内、気がついたら仕事の9割が暗闇関連になっていたという「闇の案内人」である。

 古来、日本人は月光を愛で、蛍狩り、虫鳴きといった闇のレジャーを楽しんだ。つまり、日本人の感性は闇から湧き出していたことがわかっている。(谷崎潤一郎「陰翳礼讃」など)
 しかし今、オフィスでは一日中電灯がともり、深夜でもコンビニの光が溢れ、都市から闇が駆逐されている。本書は、風俗、文学、信仰、健康など様々な視点から、闇を見つめている。

<世界で一番、異常に明るい「光の国」日本>
 気象衛星がとらえた地球の夜の写真を見ると、はっきりわかる。夜の日本はほぼ丸ごと全部異常に明るい。世界の中で、アメリカと西欧と日本が際立って明るいのだが、特に日本列島の夜の輝きは世界的に見て特異である。しかし、日本人にはその自覚がまったくない。

 2011年春、3.11の影響で首都圏の電力が不足、いつもより、とんでもなく暗くなったことは記憶に新しいが、ちょうどあの時が外国の都会並みの明るさになっている。

 なぜこんなにも、日本人は明るさを好むのか。その理由を中野氏は、高度成長を支えた昭和ヒトケタ世代に原因があるとしている。子供時代は戦争一色で「灯火管制」が実施され、日本史上最悪の闇を一生分味わったからだ。しかし、「街灯を一晩中点けっぱなし」にするにはもう1つ別の理由がある。

<日本の原発は、1日中同じ出力で運転する>
 原発には一度運転したらそうそう停めるわけにはいかない(あるいは、そうそう止めたくない)という大きな特徴がある。日本の原発は一日中、同じ出力で運転する。ところが、夜の電力は昼より少なく、特に深夜から早朝にかけて激減する。だから、原発を推進していけば、夜の電力供給にどんどん余裕が出てくる。そこで、夜に生産した電気を実質的に蓄える「楊水発電」という副産物ができたが、ロスが多く、実質的に機能していない。もっとストレートに深夜の需要が増えてもらわないと、原発の存在価値がなくなる。そこで、都会の深夜の電気の点けっぱなしでは飽き足りず、広大な田舎のあちこちの道に光の行列(街灯)ができ、車も人もまったく通らない深夜の道をご丁寧に照らすことになっているのだ。

<五感が敏感になり第六感が働くようになる>
 闇の中に30分から60分いれば、ほぼ誰でも五感が敏感になる。動物的に敏感になった五感が協働して第六感が働くようになる。山伏や忍者のような特殊な人だけではない。今、我々は、都市で快適に生きていく為に、わざと五感を鈍感にさせているに過ぎない。

 健康にもいいことがわかっている。ナイトツアー、ナイトハイクの参加者はツアー後、体調がよくなることが多い。また、夜遅くまで明るい光を浴び続けることが、鬱病や乳癌、前立腺癌の一因とも言われるようになってきている。

<闇を失うことは、日本人の感性を失うこと>
 日本人は昔から、コントラストが弱く影を意識させないやわらかい景色を好んだ。闇を失うことは日本の文化を失い、日本人の感性を失うことを意味する。しかも、闇を失うことは日本人だけでなく、ヒトという生物にとっても危険なことだ。これは、節電やエコだけの問題ではない。
 夜が昼のように明るいことこそが豊かであるという20世紀的価値観はむしろ貧しい。
 都市化によってよって失われた夜の闇を復興し、闇と親しんで暮らすことは、新しい価値観で新しい社会を築いていくことになる。
 風俗、文学、信仰、健康などに留まらず、電力不足問題、原発問題を含めて示唆に富んでおり、とても面白い。

【三好 老師】

注1.「陰翳礼讃」:谷崎潤一郎の随筆。まだ電灯がなかった時代の今日と違った美の感覚を論じたもの。こうした時代西洋では可能な限り部屋を明るくし、陰翳を消す事に執着したが、日本ではむしろ陰翳を認め、それを利用することで陰翳の中でこそ生える芸術を作り上げたのであり、それこそが日本古来の芸術の特徴だと主張する。

注2.「揚水発電」:夜間などの電力需要の少ない時間帯の余剰電力を使用して、下部貯水池(下池)から上部貯水池(上池ダム)へ水を汲み上げておき、電力需要が大きくなる時間帯に上池ダムから下池へ水を導き落とすことで発電する水力発電方式。

<プロフィール>
三好 老師(みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。


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