NET-IBでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、NHKの受信料強制徴収はおかしいとし、これがNHKの偏向、政治的不公平を招く主因と指摘する2月24日のブログを紹介する。
NHK会長に就任した籾井勝人氏の「二人羽織」は世界的に有名になったと伝えられているが、国会で質問を受けて答弁する際には、できるだけ、自分の言葉で考えを伝えるべきだ。いちいち、付き人の用意するカンニングペーパーを読まなければならないなら、答弁原稿を書く人物が答弁に立つべきだ。NHK会長の職責をまっとうできる人格、識見に優れた人物を起用するべきである。
不偏不党、政治的公平、公平・公正の原則に則ってNHK放送が行われなければならないことは言うまでもない。放送法にはこのことが明記されている。NHKが不偏不党、政治的公平の大原則に則って放送事業を行うためには、人事における公平・公正が確保される必要がある。
NHK人事の要になっているのは経営委員人事である。経営委員会はNHKの最高意思決定機関である。経営委員は12名で、その任命権は内閣にある。この経営委員会がNHK会長を選出する。NHK副会長と理事は、NHK会長が経営委員会の同意を得て任命する。NHK会長、副会長、理事から構成される役員会がNHKの事業執行上の最高機関であるが、そのメンバーを選出する権限は経営委員会にあるのだ。
放送法は第31条で、経営委員人事についての原則を定めている。
(委員の任命)
第31条 委員は、公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。この場合において、その選任については、教育、文化、科学、産業その他の各分野及び全国各地方が公平に代表されることを考慮しなければならない。
つまり、NHKが不偏不党、政治的公平、公平・公正な事業運営を行うために、もっとも重要なことは、経営委員人事が適正に行われることなのだ。経営委員の任命権は内閣にある。安倍晋三氏首相はこの経営委員人事の権限を私物化しているのだ。
昨年11月8日、国会は安倍内閣が提案したNHK経営委員の人事案に同意して5名の経営委員が任命された。作家の百田尚樹氏、哲学者の長谷川三千子氏、海陽学園海陽中等教育学校長の中島尚正氏、日本たばこ産業(JT)顧問の本田勝彦氏、JR九州会長の石原進氏(再任)の5名である。
極右と目される人物、安倍晋三氏の「お友達」が任命され、「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者」「教育、文化、科学、産業その他の各分野及び全国各地方が公平に代表」されているとは、まったく思えない。
そして、新しい経営委員会が任命した新しいNHK会長が籾井勝人氏である。実態は、安倍晋三氏、古森重隆氏、葛西敬之氏が密室の協議で決定したものだと見られている。同じ九州出身の麻生太郎氏が推薦したことも影響していると言われている。
この籾井勝人氏が「二人羽織」の主人公である。NHKは国会中継を行う際に、籾井氏の「二人羽織」を隠蔽するべきでない。通常の国会中継と同様のカメラワークを実行するべきである。
NHKのあり方を変えるには、放送法の改正が必要である。民主党は独自に放送法改正案を提出するとしているが、肝心要の部分を改正しないのなら意味がない。肝心要の部分とは、NHKと市民の放送受信契約に関する規定である。NHKの放送受信料を定めている条文が第64条である。
(受信契約及び受信料)
第64条 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。
この規定は、「財産権」を保障した日本国憲法に違反している。家にテレビを設置しただけで、NHKと受信契約を結び、放送受信料を支払わなければならないというのは、憲法が保障する「自由権」、「財産権」に反するものである。放送法を改正し、放送受信契約の締結を「任意制」に移行するべきだ。
NHKは非契約者がただで放送を視聴しないように、放送にスクランブルをかければよい。放送受信契約を締結した者だけがスクランブルを解除できるようにすればよいのだ。こうすれば、NHKは必然的に放送受信者の意思に沿った番組編成、番組編集を行うようになる。現状では、NHKはNHKの人事権と予算編成権を握る政治家と官僚の顔色だけを見ることになる。その結果、NHK放送の「不偏不党」、「政治的公平」、「公平・公正」の大原則が破壊されているのだ。
民主党は放送法改正案を国会に提出するのなら、放送法第64条の改正を盛り込むべきである。
※続きは24日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第798号「テレビを設置したらNHK受信料強制徴収はおかしい」で。
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