韓国で昨年12月18日の封切り以来、爆発的なヒットとなっている映画がある。弁護士時代の故・盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領がモデルになった「弁護人」だ。
日本在住の韓国人通訳者が言う。「1,200万人近くが映画館に足を運んだと聞いています。韓国の人口が約5,200万人ですから、子供やリピーターの数を除いても、成人の3分の1は見に行っていますよ。私は日本に住んでいるので、まだ見ていませんが、友人のなかには『2回見に行った』という人もいます」と語る。
盧武鉉氏は2003年から08年まで韓国の大統領を務め、その後、不正資金疑惑で事情聴取。09年に投身自殺を図り死亡(他殺説も存在)しているが、「たたき上げの庶民派」として、特に若い年齢層からの支持が高かった。韓国では、大統領の任期を終えた人物(もしくはその家族、親戚)が逮捕され、在任期間中の汚職を指摘されるケースがよくある。映画では、韓国屈指の実力派で「シュリ」「JSA」などにも出演している俳優ソン・ガンホ氏が盧武鉉氏を演じ「笑いあり、涙あり」の構成だ。
前述の韓国人通訳者が指摘する。「朴槿惠(パク・クネ)大統領にとって、この映画のヒットは都合が悪いでしょう。パク・クネ氏の父親である朴正煕(パク・チョンヒ)氏が大統領の時に、若き盧武鉉氏は軍事政権に対抗する学生運動を行ない、さらには逮捕や拘留も経験しています。苦労人の盧武鉉氏は若い層には『努力の人』として人気がありますが、パク・クネ氏にとっては『政敵』でしたからね」
軍事政権時代を「あの頃は犯罪も少なかった。住みやすかった」と懐古する高齢者もいる韓国。日本は「軍」という言葉そのものがタブー視されているため、日本人には想像もつかない感覚だが、韓国の現在の大統領・パク・クネ氏は、軍事政権時代を統治した朴正煕氏の娘。映画「弁護人」を通じて、韓国では当時の「軍事政権」の是非が浮かび上がり、パク・クネ政権へ何らかの影響を与える可能性もある。
映画は現在も韓国の映画館で上映中で、日本のレンタル市場に出回るのは数カ月先のことになりそうだ。
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