九州全体を網羅する軌道。その主役と言える存在が九州旅客鉄道(JR九州)だ。国鉄の分割民営化にともない生まれた同社は、当初より鉄道事業での苦戦が予測されていた。そんななかでも営業段階で利益を計上するに至り、現在も株式上場に向けて努力を重ね続けている。JR九州の行動から見える企業目的は、まさに「九州浮揚」である。地域を活性化させて人の動きを生み出し、鉄道業を守り続ける。その陰には多くの工夫と努力が払われているようだ。
<観光列車でローカル線に光を>
経営環境が厳しい。けれども、エリアで分割された以上、その状態での経営をしていかなくてはならない。そこでJR九州がとった戦術の1つが、旅の目的を付与することだ。国鉄時代、その事業の裏にあったのは利便性とスピードにあった。つまり、移動の手段の1つとしての鉄道、という位置づけだ。現在も、鉄道の主要な収入源は通勤と通学である。その点は変わらないが、これは地域に根差し過ぎていて、鉄道会社自身がどう腐心してもまちの発展、退行は如何ともしがたい部分がある。まちが突如、大都市に変化し人の往来が一気に増す、ということはあり得ないからだ。では、鉄道事業としてどうしたらいいのか。JR九州は普段の移動手段以外の収入の増加を狙った。観光列車の充実だ。移動手段ではなく、旅を提供する。レジャー分野での副収入を狙うのである。
地域と地域を点で結ぶだけではなく、その間の線も楽しめるようにする。これは鉄道ならではの特性だ。飛行機の狭い機内や、揺れの激しいバスでは、ゆったりとした快適性を得ることは難しい。そこに光明を見出したのである。ちなみに国鉄時代、この部分は大いに後回しにされてきた。快適性よりもスピード、コスト。その流れの転換である。
JR九州は観光に特化した列車をいくつも導入してきた。現在、JR九州の路線内を走っている観光列車は次の通り。
◇ゆふいんの森
(博多駅・鹿児島本線-鳥栖駅-別府駅・久大本線)
◇A列車で行こう
(熊本駅・あまくさみすみ線-三角駅-徒歩5分・三角港駅・天草宝島ライン-本渡港駅)
◇SL人吉
(熊本駅・鹿児島本線-八代駅-人吉駅・肥薩線)
◇あそぼーい!
(熊本駅・豊肥本線-宮地駅)
◇九州横断特急
(別府駅・日豊本線-大分駅・豊肥本線-熊本駅・鹿児島本線-新八代駅・肥薩線-人吉駅)
◇いさぶろう・しんぺい
(人吉駅・肥薩線-吉松駅)
◇はやとの風
(吉松駅・肥薩線-隼人駅・日豊本線-鹿児島駅・鹿児島本線-鹿児島中央駅)
◇指宿のたまて箱
(鹿児島中央駅・指宿枕崎線-指宿駅)
◇海幸山幸
(宮崎駅・日豊本線-南宮崎駅・日南線-南郷駅)
これらは、デザイン&ストーリー列車と位置付けられ、ユニークなデザインやコンセプトが特徴だ。戦術的な視点で見るとローカル線の活用ということがわかる。その列車に乗ることが1つの旅の目的となるように、そこに来てもらう。そして地域の良さを体感してもらい、地域を浮揚させる。その結果、その地域にまた来てもらうという循環が生まれ、結果として鉄道の需要を底上げすることができる。このサイクルの布石なのである。
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