【特別取材】カンボジア経済視察　大虐殺の爪痕

　アンコールワットに地雷とポル＝ポト。そう、その国はカンボジア。近年は積極的な外国投資の呼び込みと安価で豊富な労働力を背景に安定した経済成長を遂げている。日本企業の進出が相次いでいる同国を視察し、経済を中心に知られざるカンボジアの現状と魅力を報告する。

＜これまでの歴史が国を作る＞
　ポル・ポトの大虐殺。知らない人はいないだろう。1975年から始まったカンボジア・ベトナム戦争でベトナム軍を見事に追い払ったのがポル・ポト軍。国民はポル・ポトを歓迎して、受け入れたが、その後予想もできない暗黒の時代を迎える。映画『キリングフィールド』で世界に伝えられたあの大虐殺が行われる。当時のカンボジア国民は約600万人といわれているが、そのうち200万人が殺害されたという。有識者をはじめ、なんの罪もない人々が拷問を受け、声をあげられないまま人権を取り上げられたのだ。貨幣を廃止し、恋愛も禁止。すべての自由を奪うという究極の共産主義を目指した。国際間で情報はシャットアウトされ、「新政権が誕生し、新しい国づくりが進められている」という情報のみが出されたそうだ。たった30年ほど前の出来事だから、さらに背筋が凍る。

　かつて罪人とされ、２年９カ月の間に延べ約２万人を収容していた施設を訪れた。クメール・ルージュ支配下の政治犯収容所、「トゥールスレーン収容所」だ。もともと学校として、子供たちの笑顔が溢れた場所だったが、突然その姿を変えた。今はその歴史を風化させないため、博物館となっている。拷問部屋には、当時使用されていたベッドが残されていた。ベッドの下には、広範囲に黒いシミ。当時の拷問により、収容者が流した血液の跡だという。独房は１畳ほどのスペースをレンガで区切ったもの。独房とされた建物には１階だけでなく、最上階まで有刺鉄線がびっしり張り巡らされていた。「逃走を防ぐためなら、１階だけでいいのでは？」そう思ったが、実は上階にも施したのは自殺防止のためだと聞かされた。殺害するが、自殺は許さない。狂気の沙汰である。施設を進むと、殺害された人々の生前の写真が展示されていた。みな捕えられ、１人ずつ写真を撮られたのである。一様に目はうつろ。生気のない視線ばかりだった。進むにつれ、その痛ましさから胸が苦しくなった。

　ただこの国を知るためには避けて通れない出来事であるにはちがいない。この虐殺の影響が現在のカンボジアに表れている。人口ピラミッドでは、働き盛りの30から40代が極端に少ない。そのため、いわゆる管理職といわれる人材が不足している。また両親を失った子供も多く、保護者から十分な家庭教育を得られていないということも聞いた。人口約1,500万人で、平均年齢は22.9歳と非常に若い。「平均寿命が短く、出生が多い」だけではない。生きたくても生きられなかった人がその裏にいたことを忘れてはいけない。

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