日本郵政顧問に就任していた坂篤郎前社長の退任劇は、首相官邸、とりわけ菅官房長官の意向が強く働いたといわれる。最終的に、坂前社長を含めた20名に及ぶ日本郵政グループの全顧問が退任することで幕引きが図られることになった。NET-IBでは退任する顧問の一人を独占取材した。日本郵政公社常務理事の立場で、郵政民営化に抵抗して辞職。民主党政権下で副会長として復帰し、現在、日本郵便常任顧問を務める稲村公望氏が、辞任問題や郵政民営化について、激白した。
<官邸からの圧力で顧問退任>
――日本郵政の前社長が顧問になっていた問題で、稲村さんをはじめ全顧問が辞められると報じられていますが、いきさつをお聞かせください。
稲村公望氏(以下、稲村) 今日(3月6日)、日本郵便の社長とお会いしてきましたが、社長からのたってのお願いがありました。私と日本郵便の顧問契約は、6月までありますが、3月末でやめる事になりました。私が顧問をしている日本郵便は、日本郵政のグループ企業のひとつで、私を雇っていた郵便の社長からお願いされました。報道で知る範囲ですが、官邸からの圧力からというのは事実なのでしょう。6月までの契約でありながら、3月でやめろと言うのはコンプライアンスをいいながら、おかしな会社です。しかし社長が辞めて欲しいというのだから、辞めることにしました。しかし、旧・大蔵省からの天下りが副社長になっていますが、それは辞めさせられません。顧問だけが辞めさせられるのです。私は天下りでもなんでもなく、理不尽な話です。私は、巻き添えを食いました。
<小泉・竹中路線は誤り>
――郵政民営化に抵抗されてお辞めになられ、亀井静香氏の働きかけで復活されましたが、副会長・常任顧問として国内外で郵便外交を展開されました。その思いをお聞かせください。
稲村 私は、郵政民営化で離れた後、再び副会長に返り咲きましたが、副会長は名目で何ら権限はありませんでした。ただ、全国の郵便局を激励に訪問し、スイスを訪問するなど海外で、郵便事業に関する外交ができたのはよかったと思います。東日本大震災で犠牲になった郵便局員の慰霊祭に参加して、花を手向けて冥福をお祈りさせていただきました。
昨年、福島県の郡山郵便局での年賀状配達の出発式に参加しましたが、「2年たった今でも、多くの方が避難を余儀なくされている。年賀状は喜びばかりでなく、いろんな思いが込められている。人と人との関係を大事にするもの として、復興の一助と考える人も多いと思う。1通でも多く元旦にお届けするようにやっている。力を合わせてやろうじゃありませんか」と職員に訓辞を行ないました。震災で約60名の郵便局員が殉職しました。本来ならば、慰霊祭は、東京で行なうべきものだったと思います。人の弔いをもっと大事にすべきではないでしょうか。
――稲村さんは、月刊誌などで小泉政権以降の新自由主義路線を批判されていますが、企業のあり方はどうあるべきとお考えですか。
稲村 郵政民営化はアメリカの圧力が背景にありましたが、グローバルスタンダードでアメリカの経営手法ばかりを真似していると、うまくいきません。日本型の経営は、社員を大事にしてすばらしかったと思います。幸い郵便局の現場はまだ生きており、そこが活性化すれば必ず再生します。しかし、問題は上部構造です。小泉政権以降、竹中平蔵の主導する新自由主義が蔓延しましたが、それで失われたものは大きく、郵便局は、社員のモチベーションが大きく低下したことは間違いありません。
話題は変わりますが、NHKの会長人事が話題になっていますが、籾井会長は、麻生太郎副総理やJR九州の石原会長などの九州人脈に連なる人のようですね。慰安婦発言で、右派の人たちは肯定的ですが、品格の問題として考えるとトップにふさわしいのか。居直ってどこの国でもやっていたのだから、何が悪いでは、国際社会から尊敬を得られません。慰安婦は、生活のために、貧しい女性が売られていく現実のなかでの悲しい話だったのです。そして、会長が理事に辞表を書かせたというのは、人の心が感じられません。企業のあり方でも、日本の伝統的慣習や文化を大事にしなければいけません。
――本日はお忙しいなか、貴重なお話をいただき有難うございました。
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