<集団的自衛権の憲法解釈変更は悪しき前例になる>
――集団自衛権をめぐって、安倍総理の主張をどう評価しますか。
山崎 こういう時期に、安倍外交は精密さを欠いている。伝統的な歴代政権の解釈と違った勝手な解釈で、わきの甘い不用意な発言を繰り返して、問題をこじらせている。
私が、集団的自衛権の解釈改憲による行使を認めるということに反対しているのは、基本的には憲法論であり、法的安定性の問題である。憲法は、法治国家における根幹となる法ですから、この解釈が、時の政権によって左右されるということは、法治国家の土台を揺るがせにする。そういう立場から反対論を展開してきたわけです。集団的自衛権についての解釈については、集団的自衛権の権利を有することは主権国家として当然であるけれども、憲法9条の解釈上、行使はできないというのが歴代政権の見解であって、それはずっと踏襲されてきた。これは、内閣法制局の見解に歴代首相が唯々諾々と従ったという性格ではなくて、歴代首相の責任で表明してきた見解です。
それを、安倍政権が今までの憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使が可能であると変更したら、悪しき前例をつくる。解釈で憲法を変えるということが、集団的自衛権にとどまらず、たとえば、安倍政権よりもっと右寄りの体質を持った政権ができて、基本的人権の一部を制限するような事態も考えられるし、逆の事態も考えられる。時の政権が憲法解釈を勝手に変えうるという前例をつくることはいかがなものか、と私は主張してきた。むしろ正面突破で憲法を改正すべきである。
――安保法制懇(柳井懇)の出す結論が注目されるが・・・。
山崎 安保法制懇が4月に出す予定の報告書について、報道でみる限りにおいて、「集団的自衛権の行使は安全保障上、密接な関係にある国からの明示的な要請がなければ許されない」と限定する内容は妥当性を有していると感じています。集団的自衛権の行使とみられるような武力行使あるいは自衛隊の活動と行動に関して、限定的小規模な武力行使を非常に制限的に認める、集団的自衛権と個別的自衛権の行使のグレーゾーンのところを認めるというのが、この発言の要諦なんです。このようなケースは個別的自衛権の範囲である、あるいは集団安全保障活動の枠内であると説明できればいい。集団的自衛権と集団安全保障とは違う。集団安全保障は国連の活動であり、その枠内のものは認められていいと私は考えている。
現時点でもPKO活動は活発に展開されているが、そのなかで他国の要員が襲撃を受けた際の駆けつけ警固のようなケースにおける武器使用の範囲の拡大というものは大袈裟に集団的自衛権の行使などと言うにはおよばない。集団安全保障の範囲であるとしたほうがいいと、私は思っている
国連に加盟しているということは、お互い密接な関係を有すると言えなくもないので、国連の活動、たとえばPKO活動のなかで集団的自衛権の行使ができないというようなことはおかしいという主張もあるけど、国連というのは二国間の同盟とは違って、多国間の安全保障活動であり集団安全保障の概念でとらえるべきだと考えている。
柳井座長らのように、慎重な物言いをすれば乗り越えられる問題だ。それを、安倍総理が勇ましく集団的自衛権の見直しであると喧伝するから、つまり"集団的自衛権の行使は長年禁じられてきたが、俺が突破するんだ"と肩肘張った言い方をするから、野党だけでなく与党内からも反撃に合うのであって、いささかドン・キホーテ的な感じがする。
専守防衛の個別的自衛権の範囲を超える国連の集団安全保障の範囲という実態に合った解釈をして、限定的小規模な武力行使を認めればいいと考える。
<プロフィール>
山崎 拓 氏(やまさき たく)
自由民主党元副総裁、元幹事長、元政調会長、元建設大臣、元防衛庁長官など歴任。1936年生まれ。福岡県立修猷館高校卒業。早稲田大学商学部卒業後サラリーマン生活などを経て、67年に福岡県議会議員に当選。72年の総選挙で衆議院議員初当選以後、12回当選。著書に『2010年日本実現』『憲法改正』など。現在、政策集団「近未来政治研究会」最高顧問。
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