NET-IBでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、「公」よりも「私」を優先し、本来示すべき日本としての見解・主張を示さない安倍首相の政治姿勢を批判している、3月9日付の記事を紹介する。
民主党政権が日米関係を不安定化させたと声を張り上げて来たのに、日米関係をかつてない不安定な状態に移行させている安倍晋三首相。ウクライナ問題でロシアを牽制する米欧諸国に対して距離を置いて煮え切らない態度を示す安倍晋三首相。
安倍晋三氏の煮え切らない態度は今度が初めてではない。
米国がシリアに対して軍事行動を引き起こそうとした昨年9月。このときも安倍晋三氏の態度は曖昧だった。シリア問題の際、安倍氏の頭を占めていたのは、IOC総会での2020年オリンピック開催地決定だった。ロシアの支持を取り付けることがオリンピック招致に欠かせないとの判断が優先した。
ウクライナに対して軍事介入の姿勢を示すロシアに対して、安倍氏が及び腰であるのは、ロシアのプーチン大統領が今秋、訪日することになっており、北方領土問題の交渉が控えているからだ。
何が問題なのか。答えは簡単明瞭だ。
安倍氏が「公」ではなく「私」を優先していることだ。
安倍氏はことあるごとに、日米同盟の強化・深化と口にする。日米関係が日本外交の基礎なのだと主張する。
ところが、その安倍氏が、日米関係の重要性を鑑みない。米国によるシリア軍事介入は正当性のないものだったが、安倍氏が米国のシリア軍事介入を支持しなかったのは、そのような理念、哲学によるものではなかった。2020年オリンピックの東京招致を最優先したのだ。
その招致も、国民のためのものではない。自分自身の利益につながるから、招致に力を注いだのだ。オリンピック招致を決めれば支持率に好影響が出る。長期政権の可能性が高まる。ただ、それだけの理由で、オリンピック招致を優先したのだ。
常日頃口にする、「日米同盟の重要性」も自分自身の利害得失に影響するなら、直ちに放り出してしまう。その程度の認識なのだ。
ウクライナで政変が生じ、新ロシア政権から親EU政権への移行が生じた。ロシアは地政学上の要衝であるクリミア半島の支配権を重視して、クリミア半島の実効支配を、軍事力の行使によって確保しようとしている。
「法の支配」、民主主義の国際ルールに反するロシアの行動に対して、米国と欧州諸国がこれを糾弾する姿勢を示しているが、安倍晋三氏は米欧の行動を積極的に支持しない。プーチン大統領の訪日が控えており、北方領土問題などの交渉に差し障りが出ることを恐れて、明確な行動を示せないわけだ。
ここでもくっきり浮かび上がるのは、安倍晋三氏の料簡の狭さ、「公」よりも「私」を優先する姿である。
普遍的な価値、民主主義、国際ルールに準拠して、日本としての見解、主張を示すのが正しい姿勢である。しかし、安倍氏はそのようなオーソドックスな対応を示さない。目先の自分の個人的な利害得失だけを考えているのである。
元自民党参議院議員会長の村上正邦氏が新著『だから政治家は嫌われる』(小学館)を刊行された。村上氏の肉声がそのまま聞こえてくるような、痛快で率直な政治評論が満載の新著である。日本政治の現実を理解するうえでも極めて有益な著書であると思う。
村上氏は自民党重鎮であったが、安倍晋三氏に対して極めて厳しい、そして、正鵠を射た指摘を示す。第一章「なぜいまの政治家は逃げ続けるのか」は安倍晋三氏に向けたメッセージと言ってもよいものである。
「肝心なこと、本当に大事なことほど、国民の間では議論が二分することが多いわけだ。こういった問題に何の覚悟もなくうかつに手を出せば、国民の半分を敵に回すかもしれない。だから、逃げる。肝心なことから逃げる代わりに、誰も反対しないこと、簡単にできて自分の手柄にしやすいことばかり手をつけて、点数稼ぎをする。その代表例が、首相の安倍晋三さんでしょう」と一刀両断に切り捨てる。
安倍氏は尖閣の領土主権について、中国が軍事力によって、実力行使に突き進むことについての脅威を訴えている。そのようなことを断じて許してならないと主張しているわけだ。
ところが、ウクライナの領土であるクリミアに対するロシアの姿勢はどのようなものであるのか。軍事力を動員して領土主権を実力行使で主張する行為を糾弾している安倍晋三氏が、大統領の訪日日程があるからと言って、ロシアに対して、何もものを言わず、媚を売る姿勢を示すのでは、首相失格である。
言動に背骨がない。軟体動物の行動なのだ。
※続きは本日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第809号「「下り坂」に転じた安倍政権道程が「まさか」に変わる日」で。
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