<個別自衛権、警察活動の範囲で可能>
――集団的自衛権で議論されている4類型というものは、集団的自衛権を持ち出す話なのですか?
山崎 4類型と、議論されているもう1つの問題について述べますと、4類型の中には、たとえば、北朝鮮が米本国にミサイルを発射した場合、それを撃ち落とすこと自体が集団的自衛権の行使であるとして議論されている。日本の領空を通過すれば、個別的自衛権の発動でいい。日本の領空ですから、それを落とすのは当たり前です。しかし、日本の領空を通過して米国本土に到達するようなものは現実にあり得ない。北朝鮮が米国本土を攻撃する場合は、それは、1番近いルートでミサイルを発射しますから、必ず北極圏を通過する。ところが、まず北朝鮮が米国本土を攻撃するという想定そのものがあり得ない。非現実的な発想であって、米国を攻撃するなんていう暴挙をやったら、報復受けたら北朝鮮は全滅します。平壌に大陸弾道弾を1発ぶち込まれたら全滅します。国がなくなる、そんなことをするわけがない。現実的に考えるならば、日本を攻撃することは十二分にあり得る。たとえば日本の原発を攻撃することはあり得る。
――原発への攻撃を一番心配した方がいいということですか。
山崎 福島の原発が津波でやられただけでこれだけの事態になる。原発を標的に定めて何基か攻撃すれば、日本全体が人は住めなくなるのだから、それはあり得る。しかし、その北朝鮮のミサイルを撃ち落とすというのは、完全に個別的自衛権の範囲です。集団的自衛権ではない。
今4類型に入っていないが話題になっているのは、アデン湾(ソマリア沖)における海賊退治です。海賊がタンカーを襲撃するから、自衛隊が行って日本のタンカーを守っています。ところが自衛隊は他の国のタンカーを守れないということです。また、一緒に守ってくれる他国の艦船が襲われた時に日本の海上自衛艦が守ってやれないということは、国際法上も、国際信義に照らしてもよろしくないので、これは守れるというようにした方がいい。これをもってして解釈改憲で集団的行使が認められるようになったと大騒ぎするような話ではない。これは、警察活動の範囲で解釈できる。
問題は解釈の話だから、安倍総理のように大袈裟に段平切るものだから、「集団的自衛権の行使だ、憲法解釈を変えるぞ」ととらえられている。世界中、米国の艦船と一緒に走り回って、地球の裏に行くこともあり得ると言った者もあるが、理論上あり得ても、そんなことは実際上あり得ないです。国連の枠内で集団安全保障として、PKO活動はあっても、米軍と一緒に行動するために米海軍を守るために地球の裏まで行動する、そんなことはあり得ないです。まずそんな余裕もないし、そんな防衛力を持っていない。今の中国や北朝鮮の状況からして、尖閣や日本列島を守るので精一杯です。地球の裏側まで行く余力はありません。
<プロフィール>
山崎 拓 氏(やまさき たく)
自由民主党元副総裁、元幹事長、元政調会長、元建設大臣、元防衛庁長官など歴任。1936年生まれ。福岡県立修猷館高校卒業。早稲田大学商学部卒業後サラリーマン生活などを経て、67年に福岡県議会議員に当選。72年の総選挙で衆議院議員初当選以後、12回当選。著書に『2010年日本実現』『憲法改正』など。現在、政策集団「近未来政治研究会」最高顧問。
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