<「同盟国でなくても」は、軍国主義の危険>
――安倍総理は「同盟関係でなくても密接な関係にある国であれば、集団的自衛権(行使)の権利を持っている」と国会答弁したと報じられたが...。
山崎 これも、安倍総理の勝手な解釈であり、伝統的な解釈の変更ですよ。集団的自衛権とは、従来の解釈では、我が国を中心に見れば、我が国と密接な関係にある国に対する攻撃を、我が国が攻撃されていないにもかかわらず、実力で排除する権利です。日本は、同盟という言葉を使っていないが、密接な国とは同盟関係にある国です。だけど、同盟国でなくてもということをもし言えば、同盟関係は米国しかないわけですから、米国以外とも、集団的自衛権の行使をやるということになります。
――この解釈の変更は、米国としてもとても認められないのでは?
山崎 米国にとって、自分のところ以外と、集団的自衛権の行使をやるとなれば、どの国とやるのかということが問われる。安倍総理は価値観外交をやっているから、たとえば、価値観を共有する関係が密接な関係とすれば、価値観を共有しないのは、アジアでは、中国と北朝鮮だけ――ベトナムも社会主義だから当たるかもしれないが――それ以外の国にまで、集団的自衛権の行使を広げたらややこしいことになります。米国は時代が変わりましたが、日本に対し戦勝国の意識を持ち続けているし、日本が軍国主義になるのを恐れている。こういう国会答弁をすると、軍事力をどこでも行使するということになる。これは軍国主義です。
たとえば、同盟でない国はどこか、インドは入るか入らないかと聞かれたら、答えようがない。入ると言った瞬間、インドがとんでもないとなる。インドと一緒に、中印国境において、戦うということになる。そんなことをインドは全然望んでいない。日本の自衛隊がなぜ来るかと大問題になるだろう。日本の自衛隊にインドを守ってもらおうなんて、夢にも思っていない。シンガポールだって、タイだって、オーストラリアだって、どんな国だって日本の自衛隊に守ってもらおうなんて夢にも思っていないと、おそらく同じ反応になる。集団的自衛権というのは、一緒に戦うという話ですから、日本と中国の軍事対決に巻き込まれる。米国とオーストラリアは同盟国だから、米国とオーストラリアと日本が組んで、南シナ海で、中国の進出を防ごうということになれば、それも集団的自衛権の行使の対象だという大変な内容である。これは本当に不用意な発言だ。
<プロフィール>
山崎 拓 氏(やまさき たく)
自由民主党元副総裁、元幹事長、元政調会長、元建設大臣、元防衛庁長官など歴任。1936年生まれ。福岡県立修猷館高校卒業。早稲田大学商学部卒業後サラリーマン生活などを経て、67年に福岡県議会議員に当選。72年の総選挙で衆議院議員初当選以後、12回当選。著書に『2010年日本実現』『憲法改正』など。現在、政策集団「近未来政治研究会」最高顧問。
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