<韓国の経済が直面している課題>
世界経済はとても不安定な状況である。日本は安倍首相が登場して以来、アベノミクスを掲げて経済に新風を巻き起こしていたが、最近貿易収支の赤字、財政赤字の増加など1980年代のアメリカが経験している状況を踏襲している。去年まで絶好調であった韓国経済にも黄色信号がともり、韓国経済の弱さを露呈し始めている。お隣の国である韓国経済の動向を理解することは、日本の経済動向を占う上でもとても参考になると思う。韓国経済ウォッチングというタイトルで、韓国経済の動向と原因の分析を数回にわたって進めていきたい。
今回は、円安によって急激に経済に変化が訪れた1989年度の韓国の状況と今を比較してみることとする。
89年度は、円安によって韓国経済が低迷していた時期である。円高の恩恵を受けていた前年度の88年度は、前年度対比28.4%の輸出増と、11.4%という驚くべき経済成長を記録していた。その結果、経営収支が大幅黒字になり、それが住宅価格と株価を押し上げる効果をもたらした。政府は物価を抑えるため、海外から安いものを入れるため、輸入市場の開放を行った。しかし、89年度に入って突然、円は安くなり、ウォンは高くなった。
それによって、世界市場で日本製と価格競争をしていた韓国製は競争力を失い、市場を日本製に取られる現象が発生するようになった。
輸出増加率は、89年度に入ると、前年度と打って変わって、2.8%まで下がり、経済成長率もマイナス成長を免れたのだが、前年度の半分の水準である6.9%に止まった。円安の影響をもろに受けた韓国経済は、90年度も91年度も経常収支は赤字を垂れ流す状況に急変した。
25年の歳月が流れた2014年度に、韓国経済は再び円安という悪夢に遭遇している。しかし、89年度と違って、韓国経済のファンダメンタルは、底が固いので、心配するには及ばないという経済界の意見もある。この間、輸出額は89年度の623億8,000万ドルに対し、13年度には5596億5,000万ドルで、9倍近く成長をしている。
韓国は4年連続世界貿易額7位、3年連続貿易総額1兆ドルを超えている。GDPも、89年度には185兆6,000億ウォンだったのに対して、12年度には1,272兆2,000億ウォンに8倍も成長している。
世界市場で活躍している韓国の大手企業は、円安対策として工場の海外移転を進めている。いつかまた繰り返されるであろう円安に備えると同時に、今後持続的な経済発展を成し遂げるためには、産業構造を付加価値の高い分野に切り替える必要があるという専門家の指摘もあるからである。
例えば、造船産業の場合、商船より付加価値の高い海洋プラントに軸足を移しているが、もっと付加価値の高い設計をはじめとするエンジニアリングサービスはまだ海外に依存しているのが現状である。その結果、海洋プラントの受注額の半分以上は、海外に支払われている。
産業研究院によると、過去5、6年間は、中国などの新興国の成長によって、既存の産業構造の中でも成長を享受することができた。このような過程の中で特定の業種と大手企業に成長が偏る弊害も発生しているので、産業構造を見直す必要があるという指摘もある。
今まで韓国の大手企業は、市場を世界に多角化することと経営効率を上げることだけでも、何とか成長を達成することができたので、新しい産業への投資はもちろん、産業構造の再編に消極的であったことも否めない。
企業は効率を上げるために工場自動化などを進めてきた結果、雇用創出を妨げる要因にもなっている。
急激な海外移転も産業構造の再編を邪魔する要因になった。国内の規制から逃れるために低賃金を追い求めて海外に移転した韓国企業の海外投資金額は、89年度には5億7,000万ドルだったのに対して、12年度には231億6,000万ドルで40倍近く増加した。同期間の海外投資の増加率は、年172.3%であった。海外投資とは裏腹に、国内の設備投資は鈍化し、産業の空洞化と雇用の減少をもたらした。
韓国大手企業の株主は半分以上を外国人が占めていて、長期的な投資よりも配分を求めているので、成長しても大手企業は投資に消極的である。その結果、若い層の失業率がとても高く、大きな社会問題になりつつある。韓国経済は89年度に比べてファンダメンタルは強くなったとはいえ、別の要因での中国の追い上げなどもあり、国がどのような産業政策を取るのかとても重要になってきた。日本と韓国の政府のリーダシップは両国の産業の構造調整、今後の発展に大きく影響を与えるだろう。
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