【特別取材】カンボジア経済視察 注目を集める経済特区
アンコールワットに地雷とポル=ポト。そう、その国はカンボジア。近年は積極的な外国投資の呼び込みと安価で豊富な労働力を背景に安定した経済成長を遂げている。日本企業の進出が相次いでいる同国を視察し、経済を中心に知られざるカンボジアの現状と魅力を報告する。
カンボジアでは2005年から経済特区制度が導入され、首都プノンペンや周辺国との国境付近に設置されている。文字通り、経済発展のために法的、行政的に特別な地位を与えられている地域のことだ。経済特区進出企業は、日本の消費税にあたる付加価値税(VAT10%)が免除される。また経済特区にはワンストップサービスセンターが設けられており、申請登録や輸出入に関する行政手続を特区内で完結できるメリットもある。諸手続きで点在する公的機関に出向く必要もないのだ。
さらに経済特区内だけではなく、カンボジア政府から適格投資プロジェクト(QIP)の認定を受ければ、最長9年間の法人税の免税や生産設備、建設材料などの免税輸入制度などの優遇措置が受けられる。
さまざまなメリットがあり、外国投資を呼び込む条件はそろっている。しかし全国に登録されている32の経済特区のうち、現在稼動しているのは7、8カ所と聞く。電力供給が不安定で、電気料金が高いこと、物流インフラ、下水道整備などが不十分であることがその主な要因である。
<プノンペン経済特区視察>
プノンペン中心部から車で約1時間、18キロ離れた場所にあるプノンペン経済特区を視察した。同経済特区に入居する企業は全体で56社、そのうち37社が日本企業である。最近ではオーストラリアやアメリカからの投資が増加しているが、投資総額は日本が最も多い。2008年に婦人靴製造のtiger wing社が日本企業として、初進出。その後、縫製業を中心として、進出が進んだ。10年に一旦落ち着いた企業進出は12年以降、急増し、食品関係も目立つようになってきた。さらに非製造業として、建設業や企業支援などのサービス業も進出し、多様化している。
同経済特区に入居している企業2社を視察した。
2010年より特区内のレンタル工場に入居しているハル・プノンペンコミックセンター。工場はまるで図書館のように、本棚がずらりと並んでいる。ビジネスモデルは実におもしろい。閉店した日本のマンガ喫茶やネットカフェからマンガ本を引き取り、同工場内でクリーニングし、日本へ向け再輸出している。1カ月に約10万冊が日本から届き、同じく約10万冊を日本へ送っている。日本の様々な店舗から届くマンガ本には、盗難防止処理されたものやシールを貼ってあるもの、印鑑を施したものがある。それらをクリーニングし、販売できる状態に戻すのが同社の事業である。
アイデア次第でビジネスは生まれる。そう強く感じさせられた。担当者によると、中国やベトナム、ミャンマーへの進出も検討したが、政治的に出版物の輸出入が難しく、カンボジアに決定したという。現在、10代のカンボジア従業員を50名ほど雇用している。
小型ベアリングや電子機器などを製造するミネベア。雇用しているワーカーは、18歳から22歳までの若者4,000人。ここでは、日本企業の実力を知った。なんといっても、福利厚生が非常に手厚いのだ。工場内には社員食堂や休憩室、敷地内に社員寮もある。当日、入社説明会や社内研修を行なっている様子も見学できた。ここまでフォローされている企業はほとんどないという。日本企業ならではの細やかな対応に感心しきりだった。工場内を案内してもらった際に、何十人ものワーカーとすれ違ったなかで、一様に会釈やお辞儀をしてくれた。またこの視察でいくつかの工場を回ったが、最も職場に笑顔が多かったように思う。手厚い福利厚生、丁寧な社員教育の賜物だと強く感じた。
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