北陸信越地方の海運企業社長A氏は、「海運業という存在自体が、国民に知られていないのでは」と危ぶむ。A社長自身、幼い頃から「家は海運業」と言うたびに関心のない反応を示されてきた。苦笑したのは「海運業」と聞いた相手から「占い師さんですか?」と問い返されたこと。どうやら「開運」と聞き間違えたらしい。「いっそ、屋号の海運を、開運に変えたら、少なくとも人目は引くかもしれませんね」と冗談まじりで微笑むが、その目は笑っているとは言い難い。
内航海運(日本国内での海運業)業界の船員不足が半端ではないからだ。
日本国内の船員のうち海運業に携わる者の数(船舶所有者に雇用されている船員)は、1980年の101,633人から減少し続け2012年現在では29,427人。3割程度に減ってしまった。この数に外国人船員は含んでいない。
日本の産業界における海運業は、重要な位置を占めている。2012年の貿易量は、トン数ベースで9億6,300万トン。その99.7%を海上貿易が占める。内航海運(日本国内での海運)についてはトン数ベースで3.6億トンと、全体貨物輸送量の7.3%を占めるに留まるが、輸送量に輸送距離を乗じた輸送活動量ベースで見ると1,749億トンキロと、全体の40.7%を占めるようになる。
これは内航海運が、鉄鋼、石油、セメントなどの産業基礎資材の長距離・大量輸送を多く担っているためである。
「海運業は日本経済を支える大きな産業。衰退していけば、国民が困る。何としても後継者を育てたい。進水式に子どもを招待するなどして海運業のイメージアップを図り、船員に憧れる若者を育てたい」とA社長。
このように海運業の船主たちは、切実な課題に取り組もうとしている。その一方で、福岡市では港湾局で不祥事が発生し、船を迎える港のイメージを低下させている。これでは船主たちの苦労も台無しだ。観光船の受け入れを望む福岡市にとって海運業は関係ないと言いたいかもしれないが、同じ海に携わる業界のものとして、足を引っ張ることだけは止めて欲しい。
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