<尖閣で衝突!その時、米国の対応は?>
――現場の愛国心のある兵隊がつい英雄的な行動に走ってしまうのをきっかけに不測の事態が起きるのを防ぐメカニズムが必要ということですね。
山崎 そうです。末端が暴走する可能性があるので、そういうことのないように、両国軍事司令部においてただちに衝突回避の指令が出せるようにしなければならない。
尖閣諸島をめぐっては、安倍総理は「領有権の問題は存在しない」と言っている。米国は、施政権については日本にあると明確に言っているが、領有権の問題について発言しないとなっている。尖閣の問題は、日本は棚上げ論を言えないようになっているが、日本の施政権を認めさせて領有権を棚上げするという案が言われている。中国は、領有権も施政権も棚上げ論です。というのは、実際に、尖閣の5つの島には何もない。標識が立っているくらいで、竹島とは違う。竹島は、韓国が実効支配している。北方領土も、ロシアが完全に実効支配している。尖閣は、日本が実効支配している。実効支配の証を立てようとしたのが、石原慎太郎知事(当時)=現在、日本維新の会共同代表=。そのために東京都が買おうとした。そこで、乗り込んでいって旗を振ろうと、漁船に乗って旗を立てに行ったのが、都知事選に出た田母神俊雄・元航空幕僚長です。勇ましいから軍艦マーチを鳴らして行ったが、中国の海警局の船に追いかけられた。海警の船は軍艦と同じだから、田母神氏は、漁船では駄目だと体験して、海上自衛隊の船でないと対抗できないと思っている。石原氏は都知事選で「この人ほど勇ましい人はいない」と応援した。
――尖閣での軍事衝突が万が一起きたら米国はどう対応しますか?
山崎 米国はまだ日本を守ると言っており、その線は変えないでしょう。けれど、もし尖閣が攻められても、安保条約第5条を発動するのに連邦議会の承認を求める可能性がある。米議会が否決した時は、尖閣を日本だけで守らないといけない事態になることを、日本側は想定しておかないといけない。
米側は今は、5条発動をやると言っているから、大統領権限でやるだろうが、米中戦争になる危険があるから米議会にかける。その時に、今のような状況では、米議会に否決される恐れがある。米国民は世論調査では、中国と日本のどちらが大切かという設問に対して、中国が大切だという方が多い。議会は、国民世論に従うから、安保条約の発動を認めない可能性がある。日本だけで守らないといけなくなる。そうなったら、中国は足元を見て、尖閣に来る可能性がある。中国は世論戦、法律戦、心理戦という「中国の三戦」と呼ばれる手段を駆使している。とくに世論戦というのは、国際世論のことで、米国に対して、様々なチャンネルを駆使して働きかけている。中国だけでなく韓国もそうだが、日本が軍国主義に向かっているとやられている。それが、外交というもので、一本調子の勇ましいだけで、物事が進むわけではない。
――日米安保体制は、軍事同盟として有効に機能していますか?
山崎 明確に機能している。日米同盟に最大の機能は、核抑止力である。米国も中国もロシアも核を持っているが、日本は核を持たない。じゃあ持つかということになると、持たない方がいい。NPT条約(核不拡散条約)に加盟しているから、唯一の被爆国日本がNPT体制から外れることになると、一斉に脱退して体制がなくなる可能性がある。「日本が核兵器を持つならば」と、全世界が持つことになる。それは危険だ。米国は、銃保有を認めているから、絶え間なく銃犯罪がある。それと一緒です。どこか1カ国でも、たとえばクレージーな指導者が核を使ったら、大変なことになる。
<プロフィール>
山崎 拓 氏(やまさき たく)
自由民主党元副総裁、元幹事長、元政調会長、元建設大臣、元防衛庁長官など歴任。1936年生まれ。福岡県立修猷館高校卒業。早稲田大学商学部卒業後サラリーマン生活などを経て、67年に福岡県議会議員に当選。72年の総選挙で衆議院議員初当選以後、12回当選。著書に『2010年日本実現』『憲法改正』など。現在、政策集団「近未来政治研究会」最高顧問。
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