<国力の充実を軍事力でなく経済力に>
――日中関係悪化、軍事緊張の影響を受けるなか、日本経済の基本方向はどうあるべきですか。
山崎 国力の充実を軍事力ではなく、経済力に置くということが大事な発想である。外交の背景に国力がある。その国力というのが、国家主義者からすると、国力はイコール軍事力である。 国家主義と軍国主義は、戦前の反省の上に立たなければ、一体になる可能性がある。かつては大東亜戦争と言ったが、大東亜共栄圏をつくるといって勇ましくやったけれど、それは、ナショナリズムの発動だった。ナショナリズムをずっと追求していくと、軍事力を背景にしないと外交力はないという結論になる。軍事力を背景にしようとすると、専守防衛を越えなければ成り立たない。
安倍総理もそういう発想だと思うが、今は周りからたしなめられて、経済力と言っている。ところが、集団的自衛権と言ってみたり、防衛費を増やしたり、国防の基本方針を見直すと言ってみたり、靖国神社参拝したりするものだから、おかしくなる。衣の下から鎧を出さずに、アベノミクス1本で行ってもらいたいというのが、我々の考えだ。軍事衝突を避ける、軍事力膨張を避けることだ。
今、安倍内閣への国民の支持が高い。安倍総理の言い方は勇ましいから、国民は男らしく感じる。そして、経済政策を買っている。国民は、外交安保は難しくて、生活に直結していないから関心ないということがまま起きる。その失敗に国民が初めて気付くのは、戦争が起こってからだ。
日本の戦後の歴代指導者の中で、安倍政権が一番危険でしょう。戦前を知らない世代で、戦争体験がないまま、戦前、革新官僚と言われた自分の祖父の岸信介元首相の政治経歴にあこがれているように見える。
今振り返れば、国民の多くは、大東亜戦争に突入していった東条英機の行為に対し、しまったと思っているけど、その当時は東条英機というのは大変なものだった。国民の人気もあり、政治家も官僚もみんな、彼を恐れていた。その結果、歯止めをかけられず、対米戦争に突き進んだ。
――それでは遅いということですか。
山崎 それでは遅い。戦争が起こったらおしまいだ。後から「しまった」となる。今まで日本の自衛隊員は、訓練では死にましたが、戦闘行為では1人も死んでいない。殺した者もいない。集団的自衛権行使を全面的に認めるとなれば、米軍と一緒に転戦することになる。米国の軍隊は、多くの戦死者を出している。米国がそれをできるのは、世界の警察官を自認する軍事大国であるからだ。
――そういう事態が生じるという想像力は、自民党の若手議員にはないんですか。
山崎 残念ながら、そういう想像力がない。戦争体験がないことと、死んだことがないから。だから、死に対する危機感がない。死んでから反省しても遅い。不思議なことに、今の若い人ほど死を恐れていない。年寄りほど死を恐れる。若いほど未来があるのに、もったいないことだと思う。
――中国は軍事力を増大させているから日本も防衛費を増やさなければいけないという議論があるが...。
山崎 日本の財政が持たない。中国だって、日本のマーケットが必要だし、日本からの輸入、投資も必要だ。互恵関係発展を中心に日中関係を立て直すことが大事だ。
<プロフィール>
山崎 拓 氏(やまさき たく)
自由民主党元副総裁、元幹事長、元政調会長、元建設大臣、元防衛庁長官など歴任。1936年生まれ。福岡県立修猷館高校卒業。早稲田大学商学部卒業後サラリーマン生活などを経て、67年に福岡県議会議員に当選。72年の総選挙で衆議院議員初当選以後、12回当選。著書に『2010年日本実現』『憲法改正』など。現在、政策集団「近未来政治研究会」最高顧問。
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