東日本大震災から3年が経過した3月11日、伊吹文明衆議院議長が「脱原発」を目指す考えを表明したことで、安倍政権が進める原発再稼動に影響を与える可能性が出てきた。前日に自身の公式フェイスブックページにおいても「私たちは、最終目標としては脱原発に舵(かじ)を切った」と書き込んでいたことが話題を呼んでいる。
伊吹氏は、衆院京都1区。大蔵官僚出身で1983年の衆院選で初当選。当選10回を数えるベテランだ。自民党幹事長や財務相、文部科学相など要職を歴任。2012年12月から衆院議長を務めている。ホームページで政治目標について「伝統的社会規範を身につけた日本人の人間力の再生」と掲げており、自民党保守派の流れにある。
震災追悼式では、東京電力福島第一原発事故に関し「原子力発電所事故のあった福島県では、住み慣れたふるさとに戻ることができず、今なお放射性物質に よる汚染に苦しんでいる方々が多くおられる現実を私たちは忘れるべきではない」としたうえで、「電力を湯水のごとく使い、物質的に快適な生活を当然のように送っていた我々1人ひとりの責任を、すべて福島の被災者の方々に負わせてしまったのではないかとの気持ちだけは持ち続けなければなりません」と訴えた。
フェイスブックにおいても、「核エネルギーはコストの安い電力を供給してくれますが、広島、長崎の悲劇を生み、3.11の自然の力の前に抑制の効かない人間の弱さをさらけ出してしまいました。人間の知恵で自然をコントロールしているつもりの技術は、人間の心の弱さが出ると自然の報復を受けます」と原発の危険性を訴えている。
東京都知事選において、小泉純一郎元首相が、脱原発を掲げて細川元首相を応援したが、自民党内では原発について賛否が分かれており、小泉元首相に続く自民党幹部出身の「脱原発」発言は、今後のエネルギー政策に影響を与えると見る関係者は少なくない。
ある識者は「原発問題は、左右の対立を超えた問題。皇居を含め美しい国土が放射能に汚染されたのを何も言わないのは保守ではありませんよ」と語る。
伊吹氏は、昨年11月、都内で開かれた月刊誌のパーティーにおいて、安倍政権が進める非正規雇用の拡大やTPPなどの新自由主義に基づいた経済政策を批判するなど、自民党出身でありながらも、安倍首相と距離を置いている。
憲法第41条は、「国会は国権の最高機関」と定めており、衆議院議長は、「三権の長」として、行政府の暴走を抑制する立場にある。
今回、脱原発派への転換を明確に宣言したことで、その言動に注目が集まっている。
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