<アジアのゲートウェイ福岡――日中、日韓の安定こそ>
――日中、日韓関係が政治問題にとどまらず、経済関係まで響いています。どう打開しますか?
山崎 それが問題で、軽く考えたらいけない。概算の数字ですが、名目GDPが日本は500兆円、中国は1,000兆円。貿易総額は、日本が1兆6,800億ドル、中国は4兆1,600億ドル。米国が今17兆ドル。間もなく中国が米国を追い抜く。貿易額で言うと、対中貿易の方が対米よりも上回っている。日本の輸出先は、中国が20%、米国が15%、EUが12%です。中国の方は、輸出先はEUが一番多く19%、米国が17%、日本が8%ですよ。輸出の総額(2011年)が中国は1兆9,000億ドル、日本は8,200億ドル。だから、日本の倍以上の輸出額の中で、中国は、EUや米国に依存している。日本のウエートは8%しかない。ところが日本は中国に依存している。今は日米貿易だけ重視しているけど、日中貿易を重視するということをやらなければ、日本が再び経済大国になるというのは、困難だ。
日本はアベノミクスの結果、貿易立国ではなくなった。大変なことだ。貿易赤字が去年、11兆4,000億円出た。今までは、10兆円の黒字が出たが、去年逆転した。原発を止めて、天然ガスや石油の輸入を増やし、資源価格が高騰した。アベノミクスは大成功で、デフレ不況から脱却したと大喜びしているが、一方で大きな問題が発生している。資源価格が暴騰している。デフレから脱却するのは当たり前です。消費者物価が、1.3%上がった。家庭経済は、所得が増えているわけではないから悪くなっている。今春闘で、どれだけベースアップされるかということがあるが、企業にベースアップする余力があるかどうか。トヨタとか輸出産業に限定されるのではないかという気がする。
――そうすると、国民所得が上がらないまま、4月の消費税増税を迎えます。だいたい3.3%物価が上がると言われています。アベノミクスの肝心の3つ目の矢をどうするのでしょう。
山崎 消費税が上がったらますます苦しくなる。今は、経済政策がデフレからの脱却中心になっているが、デフレからの脱却となれば、物価を上げろ、給与を上げろということになる。それはそれでやるが、成長政策を重視しないと、財政政策、金融政策、租税政策だけでは限界がある。とくに租税政策は、法人税減税を言っているけども、消費税を上げることと法人税を下げることは矛盾する。法人税を納めている中心は大企業であって、中小企業はほとんどが赤字だから納めていない。黒字で法人税を納めている企業は、トヨタとか日立とか大企業中心で、それに対して法人税を減税するということになる。一般の庶民は消費税増税によって苦しまれて、消費税が上がった以上に給与が上がらずに困る。
だから成長政策をやらないといけない。財政政策、金融政策、租税政策の3つの政策は、国債の赤字を増やすことになる。100兆円の予算を組めば、国債発行が増える。新たな借金である国債は、41兆2,500億円もある。国債の利払いが23兆3,000億円。100兆円の予算と言っても、真水の政府予算というのは、73兆円だ。社会保障が30兆5,000億、公共事業が6兆円、防衛費が5兆円。公共事業を、強靭化対策と称して、12.9%も増やしている。財政政策でやるということは、いろいろ矛盾が出てくる。
少子高齢化で社会保障費がどんどん増えるから、消費税増税をあてることになっている。30兆5,000億の内訳は、年金が15兆、医療が10兆、介護が5兆。これが少子高齢化の進行によって、どんどん増える。中長期的に見れば、少子高齢化対策が一番大事だ。今は、騎馬戦型は遠い昔で、1人で1人を支える肩車型になってきた。支えられなくなる。
問題は、どうやって子どもを産めるようにするかだ。保育所だけではなくて、子どもを産んだら生活が楽になる制度をつくらないといけない。子どもを産まない女性もいるから、申し訳ないけれど...。そういう意味では、民主党はいったん成功した。問題は財源で、手厚い子ども手当を出すこと自体は正しいことだった。
――福岡経済の発展について、ご意見をお聞かせ下さい。
山崎 福岡のことを最後に言えば、アジアゲートウェイ構想があるが、福岡はアジアへのゲートウェイ、とくに中国、韓国との交流を盛んにしないといけない。そのためには、政治の関係が安定しないと、経済関係も文化交流も進まない。むしろシュリンクする。お互い危険な国になると、観光にも影響する。そういうことを中国の留学生も話す。親から「危ないから日本に行くのを止められた、間もなく戦争になるかもしれない」と。そういう情報が流されているから。やっぱり、我々の責任は重いと思う。僕は在野の政治家になったけれど、アジア各国の政治家と人脈もあるので、万が一にも戦争にならないように、日中友好回復に最善を尽くしたい。
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<プロフィール>
山崎 拓 氏(やまさき たく)
自由民主党元副総裁、元幹事長、元政調会長、元建設大臣、元防衛庁長官など歴任。1936年生まれ。福岡県立修猷館高校卒業。早稲田大学商学部卒業後サラリーマン生活などを経て、67年に福岡県議会議員に当選。72年の総選挙で衆議院議員初当選以後、12回当選。著書に『2010年日本実現』『憲法改正』など。現在、政策集団「近未来政治研究会」最高顧問。
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