本年4月には、アメリカのオバマ大統領が来日する予定だ。ウクライナ情勢をめぐる対ロ政策のすり合わせから始まり、尖閣問題や靖国参拝をきっかけに冷え込む日中関係の改善策、在沖縄米軍基地の移転問題、集団的自衛権、TPP協議の落としどころまで、実にさまざまな懸案を処理しなければならない。
そんななか、日米の同盟関係を大きく揺るがしかねない問題が発生している。それはアメリカ海軍の水兵らによる東京電力に対する被曝集団訴訟に他ならない。3年前の福島第一原発の事故を受け、アメリカ政府は急遽、韓国に向かう予定であった原子力空母「ロナルド・レーガン」をはじめ25隻の艦船と計2万人の兵力を投入し、福島の原発事故対応に当たらせたものである。
当時は「トモダチ作戦」と命名され、日米の友好信頼関係を象徴する救援活動であった。しかし、2013年初頭から数次にわたり、この支援作戦に参加した米軍の兵士たちが「放射能被害を受けた」という理由で、その賠償を求める集団訴訟をアメリカのサンディエゴ地裁に提出したのである。
当初、原告団はアメリカ政府、とくに国防総省や海軍を相手取る訴訟を意図していたようだ。そのため、彼らは「アメリカ政府は日本政府と東電の間の通信を傍受し、メルトダウンがもたらす放射能汚染の危険性を認知していたにも係わらず、十分な安全対策を実施しなかった」として、オバマ政権の責任を追及する姿勢を見せていた。
しかし、アメリカ政府が一貫して、「日本政府からタイムリーな情報提供がなかった」としたうえで、「トモダチ作戦と健康被害との因果関係は立証されていない」との立場を堅持したため、訴訟の相手を日本政府と東電に変更したと見られている。要は、与しやすい相手を選んだというに過ぎない。「訴訟大国」アメリカらしい動きと言えよう。
この訴訟の原告団の弁護人は、ポール・ガーナー氏やチャールズ・ボナー氏らで、当初は20数名の原告団でスタートした。その時点でも、医療検査や治療のための費用として、少なくとも10億ドルの基金の創設を求める内容の訴訟であった。26人の原告団による約1,000億円もの懲罰的損害賠償の訴訟は、1人当たりで換算すれば40億円という高額な賠償を求めるものである。
実は、その後も原告の数が徐々に増えるかたちで、13年11月に提訴された時点では、80人近くにまで原告の数が拡大した。原告団は、大半が20代の若い水兵たちで構成されている。弁護士に言わせれば、「将来を悲観し退役したものの、生計を営める状況ではなくなったために、多額の賠償金を請求せざるを得ない」とのこと。
たしかに、彼らはさまざまな健康被害を訴えている。白血病から甲状腺ガン、脳腫瘍、失明、異常出産まで、多様な問題が噴出し、その原因はトモダチ作戦に参加し、放射能被曝を受けたためだ、と主張。そのうえで、その責任の所在は「原発事故、とくにメルトダウンに関する情報を日本政府や東電が米政府や米軍に対して速やかに情報提供を怠ったことにある」と訴えているわけだ。
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<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
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