漢方薬の薬理作用は、わからないことが多いと長年思われてきた。しかし西洋医学上の発見によって、謎のベールが剥がされつつある。人が口にするものだから、「なんとなく効いた」だけでは心もとない。漢方を始めとする東洋医学が西洋医学では処置できなかった部分を補完しようとするのなら、科学的な立証に歩み寄ることが必要だ。同外来の漢方専門医、木村豪雄医師が、３月９日市民対象のイベント「アラカンフェスタ」で行なった講演内容から、西洋医学の補完治療としての「漢方」について伝える。

＜科学的な発見で、漢方の薬理が明らかに＞
　漢方は、ユニークな薬理作用を持っているとされるが、長い間、その詳しい作用過程はよくわからないものとみなされていた。しかし、P.Agre博士が、アクアポリンという、細胞膜の水透過性を調整する水チャネルを発見したことで、謎が少しずつ明らかにされつつある。漢方の成分が、アクアポリンの調整作用に寄与していることなどがわかってきたのだ。アクアポリンの発見によってP.Agre博士は、2002年にノーベル化学賞を受賞している。

　この解明については日本でも東京薬科大が実験を行なっている。脱水状態にあるネズミと、水中毒状態にあるネズミに、西洋の利尿剤と漢方薬を与えるというものだ。その結果、西洋の利尿剤は、ネズミの体内の水分量に関わりなく水分を強制的に排出させたが、漢方薬は水太り状態になって初めて水分を尿として排出させた。この実験で漢方の成分がアクアポリンに働きかけ、調整していることがわかった。
　このように昔から伝わる漢方の知恵が、科学的な発見と組み合わせることによって、薬理として次第に解明されつつある。

＜西洋の薬にはない効用で補完する漢方薬＞
　漢方薬を用いて、どのような治療が行なわれているか――いくつか具体的な症例を挙げる。手の痛みや痺れを訴える70代の男性は、脳腫瘍の後遺症をホルモンで改善していたが、冷えが進んだために来院した。そこで朮が入った五積散（ごしゃくさん）とトリカブトのブシ末を漢方薬として与えた。五積散には多くの生薬が入っている。時間を掛けて効くので、最初は「何も変わらない」と思ったようだ。やがて痛みや痺れが取れ始めたので、今ではこの薬を愛飲しているという。

　脳梗塞を２度患ったものの、リハビリに励み、好調と思えていた方は、両足が痺れて冷え、痛むという症状が出たため来院した。両足ということで、脳ではなく首の支障を疑い検査をしたが原因は不明。「温めると楽になる」と言うので五積散を処方した。症状の緩和具合を見ながら五積散を増やすと、すっと痺れが消えていった。
　帯状疱疹も、おけらとトリカブトを与えることによって、痛みがとれたという症例が出ている。

＜白砂糖は水太りの大敵＞
　黒田官兵衛は、じめじめとした牢獄に入れられたので「寒湿痺」となったが、現代人が普通に生活していても寒湿痺になる。風土や体質だけの問題ではない。寒湿痺の原因は食生活にもある。体に水が溜まりやすい人は甘いものを好むが、白砂糖は寒湿痺の大敵なのだ。精製された白い砂糖は体を冷やし、白血球の機能を低下させ、痛みの原因となるプロスタグランジンや乳酸を増加させる。健康的と思われる果物も同様だ。痺れと冷えの症状がある方は、白砂糖や果物を控えると楽になる。病院に通う前にまず、食生活の改善、つまり「口養生」から始めたい。

　「口養生」とともに加えたい習慣は「歩くこと」だ。歩くとふくらはぎに力が入る。ふくらはぎは第二の心臓と言われている。血管の70％が集まるふくらはぎを鍛えることが大切だ。歩くだけではなく、揉むことで、血液が心臓に戻っていく。動物たちにふくらはぎがないのに人間にあるのは二足歩行だからだ。足まで下りた血液を心臓に戻すためにふくらはぎができた。揉む前には足湯を行ない、良く揉む。町を歩くときはエレベータを止めて階段を使う。砂糖を止め、ふくらはぎを揉むという習慣をつけることで、体に痛みのない快適な生活を送っていただきたい。

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