福岡県と大分県の県境、日田市。水郷のまちとして知られ、景観がとても心地よく、温泉地でもある。市内には多くの川が流れており、それらは筑後川に合流して有明海に注いでいる。人口は約6万8,000人。このおだやかな街で約5年前、住民を震撼させる非常事態が発生した。乳牛の大量の糞尿による汚染問題である。現地の今をリポートする。
山は雨水を少しずつろ過しながら、川に水を送り続ける。その山に何らかの悪影響をおよぼすものが廃棄されたらどうなるか。川は汚れ、魚、貝などの生態系を脅かし、飲み水も危機にさらされる。
同市高瀬地区で5,000頭の乳牛を飼育する(有)本川牧場は、大量に出る乳牛の糞尿を、同社が所有する同市天瀬塚田地区の土地に未処理のまま投棄していた。まず、近隣住民から、川から異臭が発生し、異物まで流れているといった声が上がった。一方、牧場本体から出た異臭は、ふもとにある温泉地に悪影響をおよぼした。本川牧場の本社のある日田市高瀬地区は三隈川からほど近い、山の頂上付近に存在している。同じく、そこから数キロ離れた日田市天瀬塚田地区も山の上場付近にある。
住民側は、日田市川下の筑後川の大腸菌群の数は年々増加しており、飲料にも不安があると訴えた。2010年、12月の日田市議会でも、この問題が取り上げられ、多くのメディアを通じて市民が認知することになった。本川牧場は天瀬塚田の同社が所有する山に牛の糞尿ではなく〝堆肥として〟投入していたと主張。しかしながら、量が多すぎる。そもそも未完熟のものを持ち込んでいるとの指摘で反対運動が起こり、塚田地区に予定されていた牛舎の建築は住民によって阻止された。
牧場がある高瀬地区は、日田市街地からほど近く、観光名所となっているビール工場から山手に入っていった場所にある。車がすれ違うこともできない細い道を進んでいくと巨大な牛舎が見えてきた。5,000頭の乳牛を飼育する牧場は、九州でも有数の規模である。
取材時、重機で牛ふんと思われるものを扱う作業が行われていた。この巨大な施設から排出される牛の糞尿は、いったいどれくらいの量なのだろうか。かまぼこ状に積み上げられた牛ふんと思われる土状のものは、屋根があるエリアの端から端まで広がっていた。5,000頭の牛の糞尿を処理するのは並大抵の設備では難しい。それが未処理のまま、大量に廃棄されたらどうなるのだろうか。取材班は本川牧場を後にし、大量に牛の糞尿が廃棄された日田市天瀬塚田地区へ向かった。
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