大変な時代になった。「自分が犬なのか、猫なのか、熊なのか、もし犬であるならばチワワなのか、ビーグルなのか、シェパードなのか」を1秒で表現できなければあなたは生き残ることができない。就活でもキャリア形成でも勝者になれない。あなたの企業の商品は消費者から受け入れられない。あなたの自治体はその独自の地域資源を理解されない。新刊『キャラクター・パワー』で、今大注目のキャラクター・ブランド研究の第一人者、青木貞茂氏にきいた。
<コミュニケーションのファスト化、コンビニ化>
――大変なキャラクターブームです。2012年キャラクター商品の小売市場は1兆5,340億円になっています。先生はこの現象をどう思われていますか。
青木貞茂氏(以下、青木) キャラクターブームの背景として、コミュニケーションのファスト化、コンビニ化が進んでいます。最近、若者の間で流行しているLINEはその典型的な例です。「会いたい」、「お腹すいた」、「楽しい」などをスタンプ1個で表現します。
私たちの世代の仕事は「1日、1週間、1カ月、1年」単位で時を刻んでおりました。しかし、現在は「1秒、1分、1時間」単位で時を刻みます。
私は広告会社出身です。現役時代は、一般企業に比べて仕事の密度も時間もかなりタイトで、無茶な仕事も数多く経験しています。しかし、ネット社会になった今ではその無茶な度合が数段増しているのです。広告メディアに携帯電話やスマートフォンを使えば、億円ベースの大規模な仕事も、数時間でプランニングして、数日間で配信及び広告活動を終了することができます。感覚的には、私たちの時代の1週間が現在の約2~3時間に相当します。
就活においても、コミュニケーションのファスト化、コンビニ化が進んでいます。一流企業の場合は、数万レベルの応募者に対し、最終合格者は百人レベルです。この場合、企業の就活生のエントリーシートに対する処理速度はまさに「1秒、1分、1時間」となります。このような処理量とスピードを前にすると、人間を認識するにあたっては、キャラクターとして認識する以外に方法はないのです。
<会社の経営陣には、その心の余裕がありません>
青木 入社後も大変です。私たちの世代は、入社時点で優劣はあったのですが、会社人生における勝者は必ずしもその序列になっていません。大輪の遅咲きが許される環境にありました。
しかし、現在は、入社後も、1カ月単位や4半期単位できめ細かく評価されます。そして、30歳を過ぎる頃には「彼は、犬なのか、猫なのか、熊なのか、もし犬であるならばチワワなのか、ビーグルなのか、シェパードのか」が判断され、会社人生が決まります。私たちの頃は、短くても3年スパンで人材の成長を見つめ、じっくりお互いに分かりあって育てていく感じがありました。
しかし、今は多くの会社の経営陣には、その心の余裕がありません。実は、人材を送り出す大学も強いプレッシャーを感じています。以前は、社会人教育は入社後の「企業内研修」に任せていました。しかし、現在では、卒業時点で、完成品悪くても半完成品の人材が求められているのです。
<理解を深めれば、人生の武器とすることができる>
――同感です。それが、個人も企業も急激に、「キャラクター」に興味を持つようになった理由の1つですね。
青木 そうです。これは好き嫌いの問題ではありません。現実に、就活や会社人生、ビジネス活動をしていく際にキャラクターはとても重要になっています。このことをより深く認識できれば、逆にキャラクターは人生の武器の1つとなります。
キャラクターブームを牽引しているもう1つの側面は、グローバル化(アメリカ化)への反動です。我々日本人は、太古から現在に至るまで、一貫してファジーで曖昧で、可能性を長期スパンで求めるという「密教」的指向性の強い民族です。ところが、とことん合理性を追求する「顕教」的側面を持つグローバル化が余りにも深く浸透してきたため違和感を覚えるようになりました。そこで、現在必死に、心の調和、バランスをとろうとしているのです。
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<プロフィール>
青木 貞茂 (あおき さだしげ)
1956年長野県生まれ。法政大学社会学部教授。専門は広告論、ブランド論。立教大学経済学部卒業後、広告会社勤務を経て同志社大学社会学部教授等を歴任。著書に『文脈創造のマーケティング』、『文化の力』、共訳書にレイモア『隠された神話』がある。新刊『キャラクター・パワー』(NHK出版新書)が2月10日に発売された。
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