訴訟社会アメリカの弁護士やロビイストの活動は日本人の想像をはるかに超えるものが多い。内外のメディアを味方につけるため、情報操作はお手の物である。具体的に言えば、空母「ロナルド・レーガン」はサンディエゴの軍港に係留されたままである。そこに着目し、「放射能汚染が深刻であるため、除染活動もむなしく、スクラップにせざるを得ない状況にある。しかし、あまりに放射能汚染すさまじく、手がつけられない」といった類の情報を流し続けるわけだ。要は、アメリカ国民の不安感や対日不信感をあおるために、あることないこと、したたかに"汚染情報"を垂れ流すのである。
ロナルド・レーガンには小生も乗船した経験があるが、たしかに海水を淡水化する装置を備えており、船内で使われる飲料水や調理用に使われる水やシャワー等もすべて周辺海域の海水を淡水化して使っていたものである。今回、東電を訴えている水兵たちも「自分たちは放射能汚染の海水を飲まされた結果、発病した」との主張を繰り返している。
しかし、5,000人を超える乗組員が搭乗していたわけで、そのなかから数十名が健康被害を訴えている状況から判断すれば、福島の事故によって発生した汚染水が直接の原因であったとするには論理の飛躍がある。なぜなら、その他ほとんどの乗組員には何ら健康被害が発生していないからだ。このことからも、因果関係の立証は難しいと思われる。
とはいえ、こうした訴訟を起こしている弁護士や反日活動家からすれば、科学的な因果関係は二の次で、とにかく日本政府や東電の無責任体質を世界にアピールすることが最大の狙いとなっているようだ。こうした状況が続けば、日本人とアメリカ人の命の値段の格差を認めることにもなりかねないうえに、アメリカでの裁判の進展如何では、日本国内での集団訴訟を誘発しかねない。
また、日本から流出した汚染水や放射能汚染によって健康被害を受けた、と称する世界各国からの賠償請求にもつながりかねない。なぜなら、事故発生当時、被災地周辺に居住していた外国人はアメリカ人に限らないからだ。よって早急に日本政府、東電は良識ある国際社会に対して情報提供を行ない、同時に「万が一、健康被害の因果関係が立証された場合には、全面的な被害の補償と治療に関する責任を全うする」旨を内外に明らかにすべきであろう。
それ以外の、いわば「たかり」的な訴訟については、アメリカ政府とも連携しながら訴訟の受理を拒絶するよう、アメリカの議会や世論に働きかけを強める必要がある。
本来、アメリカ政府が米兵による訴訟を拒絶したのと同じように、東電も理不尽な訴訟に対して、断固はねつける姿勢を示すべきであったと思われる。しかし、東電は国内の被災者に対して取った対応とまったく同じように、アメリカの軍人たちからの訴訟に対も「受けて立つ」という姿勢を自らの責任感から示したために、日本に対する悪意に満ちた集団の動きを招いた感が否めないのである。
日本政府とすれば、東電の最大の株主であるため、万が一、東電の賠償責任が認定されれば、莫大な賠償金額の支払いを余儀なくされかねない。過去において、アメリカにおいて昭和電工やトヨタ自動車をはじめ日本企業がさまざまな理由で訴えられたケースがあるが、ほとんどの場合、日本企業は敗訴している。あるいは残念ながら、多額の和解金を払い、事なきを得ている場合も多い。
要は、アメリカで訴えられた日本企業がいくら正当性を主張しても、アメリカの陪審制度のもとでは、これら日本企業が勝訴するのは至難の業と思われる。そうした過去の事例から判断すれば、今回の東電を相手取った集団訴訟は、裁判所で訴状そのものが受理されれば、東電にとって極めて困難な情勢になることは火を見るより明らかであろう。
日本政府および東電とすれば、この訴訟の持つ非科学性と理不尽性を、アメリカの良識ある人々や国際世論に訴え、訴訟そのものが受理されないよう最大限の働きかけを行なうべきであることは論を待たない。この問題については、小生も予算委員会等で指摘してきたところである。
タイミング良く、来たる4月下旬にはオバマ大統領が来日される。日米関係がおかしな方向に漂流しないように、安倍総理との首脳会談を通じて、この訴訟問題に終止符を打たせる必要があることは論を待たない。
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<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
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