九州旅客鉄道(株)(JR九州)
<地域浮揚と観光列車>
JR九州の特殊性は、移動の手段だけでは到底立ち行かなくなる九州という場所で、いかに利益を上げるかを考え続け、実行し続けた点にあるのではなかろうか。旅客鉄道事業の根幹をなすのは間違いなく人の移動である。移動というのは目的地に達するまでの手段だ。通勤、通学であったり、病院に通ったり、買い物に行くなどの手段のはずだが、それは必要性のよすがを他に求めていることになる。惰性で売上が上がるほど豊潤な土地であるのならばそれでよいだろうが、九州にそれは厳しすぎるようだ。従って、何らかの工夫をしなくてはならない。
その1つが手段の目的化。前回取り上げた「ななつ星in九州」の手法である。1つの集大成という表現を用いたのは、それ以前からJR九州は観光列車に力を入れてきたからだ。規模の違いこそあれ、旅に目的を与える作業は連綿と続けられてきたのである。
「ゆふいんの森」「あそぼーい!」「A列車で行こう」「SL人吉」「指宿のたまて箱」等々、九州の観光資源を存分に活かした観光列車を走らせ続けているのである。
たとえば、「あそぼーい!」は子どもが同中退屈しないように遊び場が用意されていたり、「指宿のたまて箱」は浦島太郎をモチーフにしたスチームミストによる演出があったりするなど、それぞれ、違った楽しみ方ができるように工夫がなされている。もちろん、道中の観光ポイントでは停車したり、減速するなどのもてなしも心得ている。そういったことに力を入れて列車に乗る楽しさを提案し続けているのである。そして、それが認められれば、地域の観光ビジネスの繁栄につながる。地域が盛り上がれば手段としての列車の活躍の場が広がる。好循環を生むきっかけとして、さまざまな手を考えている。そして、それぞれに人気路線として注目されている事実がある。地域を知ることから始め、それを高めようとしたたことがJR九州の屋台骨を支えている。
<九州新幹線で利便性を向上>
早く移動できれば、行動範囲は広がり無駄はなくなる。移動を楽しむことは余暇的には素晴らしいことだが、本来の輸送の目的からは外れている。鉄道の本来の目指すべきところは、より速く、より正確に、である。
2011年3月12日、東日本大震災の翌日、博多駅と鹿児島中央駅を結ぶ九州新幹線(鹿児島ルート)がついにスタートした。これまで山陽新幹線(JR西日本。新大阪~博多間)が博多駅まで乗り入れているだけで、JR九州の新幹線というのは実はなかった。自社で新幹線を持つこと。それによって九州を活性化すること。もちろん事業であるから、売上を上げること。そのための手段として、九州の南北の時間的距離を縮める最高のオプションとして新幹線を走らせることに成功した。
博多駅から鹿児島中央までが1時間17分と、利便性は圧倒的に向上した。また、鹿児島中央駅までつながったことにより、鹿児島中央駅から10時間で青森駅に達することができるようになった。青森までは飛行機の方が早かろうが、それぞれつながったということで区間で自由に往来できるようになった点は大きい。
とくに鹿児島から大阪までは、これまで5時間少々かかっていたものが、3時間42分に短縮されることとなる。飛行機ならば2時間14分だから、飛行機よりは時間がかかるが、それでもずいぶんの進歩である。また、空港から市街地までの移動を考えると、あるいは新幹線の方が便利かもしれない。また、鹿児島大阪間で料金を比較すると、飛行機なら2万6,800円だが、新幹線なら2万1,300円。十分に勝負できる数値に収まったという(この数値は鹿児島経済同友会によるアンケート調査「天文館周辺のホテル・旅館における宿泊客向けアンケート調査」を参照させていただいた)。
選択肢が増えたことで、九州各地から全国各地へのアクセスが容易になった。それは人の往来を刺激することにつながるし、人が動けばお金が動き、お金が動けば地域が活性化し魅力が増す。好循環のきっかけになる可能性が考えられる。
<COMPANY INFORMATION>
九州旅客鉄道(株)(JR九州)
代 表:唐池 恒二
所在地:福岡市博多区博多駅前3-25-21
設 立:1987年4月
資本金:160億円
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