<キャラクター、ブランド、シンボルの相関関係>
――キャラクター、ブランド、シンボルの相関関係を整理して頂けますか。
青木 一番上位概念はシンボルです。ある物理的なものを見て、そこにそれ以上の意味を認めるのがシンボル思考です。たとえばここにお札があるとします。お札はタダの紙切れです。ところが、このお札が富の意味を持つというのはシンボル思考です。このタダの紙を富のシンボルにしようとした時に、福沢諭吉とか、樋口一葉とか、野口英世とか、一種のセレブ・キャラクターである別のシンボルの力を借りることになります。
もう一例挙げます。カメラはどんなに素晴らしくても撮影する機械に過ぎません。このカメラにカメラ以上の価値を与えたいとします。物理的で無機質な存在を血の通った存在にするとします。
その場合、広告キャラクターにクマモンを使えば、「楽しい」カメラというイメージに変わり、広告にキムタクを使えば「かっこいい」というイメージが生まれます。つまり、別のシンボルが持つ意味を表現する力に借りるわけです。この時に、製品のブランド化が実現できることになります。
<どの国も土着な文化がベースとなっている>
青木 このキャラクター、ブランド、シンボル思考を理解することはとても大事です。人間は、日本人だけでなく、本質的には曖昧で、ファジーなシンボル思考なのです。密教(多神教的世界観)の日本人は当然ですが、顕教(1神教的世界観)と思われている国々も、さかのぼれば、必ず土着文化のベースの上に成り立っています。
この現象を私はこれをヴァナキュラーモダンと呼んでいます。ヴァナキュラーとは土着性、地方性を意味しており言語・方言や習俗・風土などがその典型です。この土着性を大事にした近代化あるいはマーケティングが求められるわけです。
<ブランドづくりには、「言葉」が大切である>
――話は変わりますが、日本人は欧米と比べて、ブランドづくりが得意でないと聞きます。
青木 おっしゃる通りです。日本人はブランドづくりが下手です。自分たちは密教(多神教的世界観)でも構わないのですが、顕教(1神教的世界観)が理解できないとブランドづくりはできません。たとえば、カメラをブランドにするということは、一種の小さな「神様」にするということです。構造としては、宗教的な共同体を作ることと同じで、その愛好者は信者になるわけです。この意味が分かっている日本の企業はとても少ないと思います。
私は広告会社時代に何度かブランドづくりに携わっています。日本の会社の製品は素晴らしいのですが、「ブランドの憲法やバイブル」を作る際に、クライアントからその製品を表す適確な言葉が出づらいのです。日本人は多神教で曖昧でクリアーでないことを好むので、言葉できっちりと表現することが疎かになっているのです。
しかし、現代は消費される商品になるためには、「ブランド化」は必須です。ビジネスの領域に留まらず、就活やキャリア開発をしていく上でも、自治体が住む場所として魅力的に見えるためにも、ブランド化が求められています。
<政党もキャラクターを使用、ブランド化の時代>
青木 政党もキャラクターを使用して、ブランド化に努めています。記憶に新しい事例は日本共産党です。共産党は、参議院選挙の際、ウェブサイト上に8人のマスコット・キャラクターで構成する日本共産党「カクサン(拡散)部」を登場させ、従来の同党のブランドイメージを一新することに努力しました。その結果、改選前の3議席から8議席へと大躍進したと言われています。
<プロフィール>
青木 貞茂 (あおき さだしげ)
1956年長野県生まれ。法政大学社会学部教授。専門は広告論、ブランド論。立教大学経済学部卒業後、広告会社勤務を経て同志社大学社会学部教授等を歴任。著書に『文脈創造のマーケティング』、『文化の力』、共訳書にレイモア『隠された神話』がある。新刊『キャラクター・パワー』(NHK出版新書)が2月10日に発売された。
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