<近代的・情報的人間でないことを認識すること>
――キャラクターを使いこなせなければ、個人も、企業も、自治体も生き残れないことは理解できました。では、具体的に次の1歩をどう進めればよいのでしょうか。
青木 現代人の頭の中には「近代的ないわゆる合理的で情報中心的なものが正しい」という刷り込みがされています。そこで、まずは「人間の本質は、近代的・情報的人間観だけでつくされるものではない」ことを認識することです。密教的OS(オペレーションシステム)で日々動いているということです。表面的にはグローバル化(アメリカ化)が浸透し、顕教的な世界観で動いているように見えますが、日本人の心の奥底には必ず密教という裏OSが働いています。つまり、分母、分子の2重構造になっており、分母はあくまでも、密教(多神教的世界観)ということです。
企業経営においても、アメリカがいい、韓国がいいと真似しても簡単には成功しません。ソニーは日本企業としてはグローバル化の先頭を走っていました。しかし、この分母と分子が逆転してしまったことも、トヨタと明暗を分けた一因と思えます。
面白い例があります。日本の技術者はマーケットの需要と関係なく「機械をどんどん精密にしたがる傾向がある」と言われています。これは、密教、アニミズムの影響です。つまり機械に魂が宿っていると考えているのです。このことは、欧米人には理解できません。
<グローバル化の波に飲まれた「夢遊病者」>
――なるほど、目から鱗です。しかし、良くも悪くもグローバル化(アメリカ化)は進んでいます。私たちはどのように対処したらよいのでしょうか。
青木 それは難しいことではありません。これまでお話してきたことは、従来は多くの日本人の意識外にありました。グローバル化の波に巻き込まれ、「夢遊病者」のような状態だったからです。今日から、「日本人の心は顕教と密教の2重構造で動いているが、あくまでも分母は密教である」と言うことを強く認識した上で、適切で明確な言語化、シンボル化に取り組めばいいのです。
<「現実界」と「想像界」と「象徴界」の交差点>
――ところで、ブランド作っていく際に大事な点は何ですか。
青木 商品のブランド価値は、「現実界」(物理的機能価値)と「想像界」(情緒的価値)と「象徴界」(超越論的・精神的価値)が重なるところに存在します。
車で言えば、下部構造である「スピードが速い」(物理的機能)だけでは成り立たず、この土台の上に「爽快な気分が味わえる」(情緒的価値)と「自尊心を満たせる」(超越論的・精神的価値)という上部構造が必要です。商品がブランドになるということは、単なるモノを超えて商品を人間化することなのです。
<東京五輪で、サブカルチャーの聖地を演出>
――何はともあれ、「夢遊病者状態」から抜け出すことが大事ですね。最後になりますが、今後の注目点に関してお話下さい。
青木 私は「2020年東京五輪」に注目しています。クールジャパンのシンボルとしてキャラクターが活躍、日本がサブカルチャーの聖地として「かわいい」とか「平和」のシンボルになって欲しいと思っています。大人も子供も楽しめる日本文化の魅力を最大限に伝える機会にしたいと思っております。
個人的には「消費者探偵」、「生活者探偵」になってみたいと思っております。一般的な消費者インタビューやアンケート調査に表れない消費者、生活者の心の動きに注目し、なぜ、「ソフトバンクの白い犬」は成功して、「NTTのドコモダケ」はあまりうまくいかなかったのか等、その深層心理を探っていきたいと思っています。
――面白そうですね。本日はありがとうございました。また、色々とお話をお聞かせ下さい。
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<プロフィール>
青木 貞茂 (あおき さだしげ)
1956年長野県生まれ。法政大学社会学部教授。専門は広告論、ブランド論。立教大学経済学部卒業後、広告会社勤務を経て同志社大学社会学部教授等を歴任。著書に『文脈創造のマーケティング』、『文化の力』、共訳書にレイモア『隠された神話』がある。新刊『キャラクター・パワー』(NHK出版新書)が2月10日に発売された。
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