西武鉄道やプリンスホテルを傘下に持つ西武ホールディングス(HD)の再上場が決まり、堤義明氏(79)の動向に注目が集まる。再上場後、実質的に筆頭株主となる堤氏が経営に関与するようになるのか。それとも旧軽井沢での隠遁生活を続けるのか。西武HDの経営陣には、気になることだろう。
<想定価格2,300円。サーベラスは投資分1,200億円を回収>
西武HDは4月23日、東証一部に再上場が決まった。西武鉄道が2004年12月に上場廃止になって以来、約10年ぶりに西武株が株式市場に戻ってくる。
上場時に新株は発行しないが、発行済み株式の20%強の8,085万株が市場に放出される。このうち筆頭株主の米投資ファンド、サーベラス・グループが保有する株式35.45%(議決権ベース)のうち5,302万株(15.5%)を売り出しに応じ、サーベラスの保有比率は19.9%に低下する。他の大株主の日本政策投資銀行(保有比率4.4%)、農林中央銀行(同3.9%)も保有株の一部を売り出す。
想定価格は1株当たり2,300円。公開価格が2,300円で決まった場合、発行済み株式総数(3億4,212万株)から算定した時価総額は7,860億円になる。近畿日本鉄道や阪急阪神ホールディングスなどを上回り、私鉄トップの東京急行電鉄と肩を並べる。
売り出しに応じるサーベラスは1,219億円を回収する。サーベラスは出資分を含め、累計約1,200億円を西武HDに投じている。投資分は全額回収できる。残る6,800億円相当の株式が利益になる。株式の売り出しに応じるサーベラスや政投銀には180日間のロックアップ期間が設定されているため、上場から10月19日までの期間、株式を売却できない。その後、逐次、株式を売却して利益を積み増していくことになろう。
サーベラスは売り出し価格をめぐって西武HDと対立していた。証券会社が算出した想定IPO(新規公開株)価格は1株当たり1,000~1,500円。より大きなリターンを得たいサーベラスの想定は同2,000~2,500円と隔たりは大きかった。ゴネた甲斐があった。サーベラスが望んでいたIPO価格となり、ハイリターンの果実を口にできる。最終的な売り出し価格は4月14日に決定する。
<堤家の資産管理会社NWコーポレーションが筆頭株主になる>
西武グループの総帥だった堤義明氏が出資し、西武HDの株式511万株(発行済み株式の14.95%)を保有する第2位株主のNWコーポレーション(東京・渋谷)は売却しない。サーベラスが撤退した後、NW社が筆頭株主となる。
堤氏が保有する西武HDの保有比率は、1%未満と見られている。この程度では経営に影響を与えることはない。だが、NW社は、もとはコクドから分割された堤家の資産管理会社。しかも、同社の大株主はいまだに36%を握る堤氏なのだ。
NW社が、サーベラスや政投銀が放出する西武HDの株式を買い増して、20%を超える圧倒的な大株主になることだって考えられる。
昨年6月の西武HDの株主総会で、サーベラスは経営権奪取に動いた。経営陣による役員選任提案とサーベラス側の役員選任提案が対立した。キャスティングボードを握ったのが堤氏だ。NW社がどちらを支持するかで勝敗が決まる。堤氏は経営陣による提案を支持、サーベラスの提案は否決された。
この行動をみると、堤氏が経営陣を支持しているように見えるが、そう単純ではあるまい。堤家は現経営陣に恨み骨髄だ。サーベラスが撤退した後に主導権を握ることを狙った行動ではなかったのか。
<未上場のコクドが上場会社の西武鉄道を支配する構造>
東証一部に上場していた西武鉄道は、有価証券報告書の虚偽記載問題で04年12月に上場廃止になった。グループのコクドやプリンスホテル(ともに未上場)ら上位10位までの持ち株比率が、上場廃止基準に抵触する80%を超えていたにもかかわらず、1億株以上の西武鉄道株を1,200人以上の従業員らの名義を借りて分散し、上場を維持させていたからだ。西武鉄道のオーナー、堤義明氏も証券取引法違反で05年3月に逮捕され、経済界の表舞台から去った。
先代の堤康次郎氏が描いた「西武王国」の青写真は、未上場のコクドが上場会社の西武鉄道株式を大量に保有、そのコクド株を堤義明氏個人が保有するという支配の二重構造を完成させ、末代まで堤家の支配を磐石にするというものだ。西武鉄道が上場廃止になり、堤義明氏が逮捕されても、コクドを頂点とする堤一族の経営支配は磐石で、西武鉄道の親会社であるコクドの経営に何の問題はなかった。
堤氏の富の源泉はコクドにあった。米フォーブス誌の「世界一の億万長者」番付で、堤義明氏は1987年から1994年まで、91年(この年は森ビルの森泰吉郎氏が1位)を除いて世界一の長者だった。日本が土地バブルに沸いていた時期だ。堤氏の資産は3兆円と評価された。コクドが親会社となっている西武鉄道やプリンスホテル、ゴルフ場の資産が出資割合に応じて、コクドのオーナーである堤氏の資産としてカウントされたからである。
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